うつくしいままで
みにくい男と みにくい女がおりました。
頬はでこぼこで、目や鼻は ななめにひんまがっております。
ふたりは恋びとでした。
男は、その みにくさを ぜんぶ ひきうけるかわりに、一生そばにいてほしいと女にたのみました。
女はうなずきます。
すると、にきびがはがれて 白い肌がすがたを見せ、ひとみはひろがり、女は世界でいちばん美しくなりました。
一方、男は まがっていた鼻がいっそうまがり、ふきでものがびっしりと顔をおおいます。
女はかがみを見て、ほんとうにうれしくなって、この男とずっといっしょにいてあげようと、心のそこから思いました。
街に出ると、みんなが女に見とれてしまいます。
男は、じぶんの恋びとがこんなに美しいことを誇らしく思いました。
けれど、女はだんだん みにくい男がいやになりました。
抱きしめられるたび、なにかおそろしいものが せなかを這いずりまわります。
ある美男子が、彼女にささやきます。
「どうして、あんな ぶさいく のそばにいるんだい」
「彼には恩があるんです」
「そんな理由で きみをしばるなんて、いけないね」
「そうでしょうか」
「そうだよ。おれなら、きみをもっとしあわせにできるよ」
彼女は、あの男とわかれて、この美男子と恋びとになろうと思いました。
つぎの日、女はそれを男にいいました。
すると男は「いやだ、いやだ。いかないでくれ。やくそくしたじゃないか、ずっといっしょにいるって」とすがりつきます。
「そんな理由で わたしをしばるなんて、いけないことだわ」
男はかなしくなって、そして、すっかり怒ってしまって、女をなぐりころしました。
へやに鍵をして、だれも女をつれていかないようにしました。
ふたりきりで、いつものように、しあわせにくらそうとしたのです。
ある日、男はじぶんのからだが腐り始めているのに気がつきました。
女は美しいままです。
男はすっかりうれしくなりました。
男が腐りきってしぬとき、女はそらにとけるように きえていきました。