さようなら
手をゆっくりと放す。幼子の温かい手を放した指先は急速に熱を失う。義母に抱かれた幼子の瞳が不安に揺れる。
「ママ?」
あぁ、この言葉も今日で最後…。
ごめんね。ごめんね。
ごめんなさい。
瞼をゆっくりと閉じる。短くて、長い沈黙。なんで、こうなってしまったのだろう。答えの出ている問いを何度も繰り返す。あぁ、そんな目で私を見ないで。私は悪い大人なの。
瞳を開ける。
いつもの笑顔を浮かべる。
「言ってくるね」
軽く手を振る。その場を後にする。
ーーカツ、カツ
ハイヒールの音を立てながら、背筋を伸ばし。モデルのように闊歩する。背を向けるのと同時にあふれ出た涙。
ごめんなさい。ごめんなさい。
コートの裾をはためかせ、それでも私はまっすぐに歩く。うつむくな。足を止めるな。まちゆく人はこちらなど気にしていない。
あの子からもらった体温はすでに覚めてしまっていたが、あの時の感触を忘れないよう、ゆっくりと手を握る。
泣きたいのに、泣けない顔。形だけの笑顔。あの子の顔が頭から離れない。わかってたんだろうな。
ショーウィンドウに移る影。あの子と同じ顔。同じ笑顔。
「もっと、うまく笑えてたと、思ったんだけどな。」