無くなってしまうならいっそのこと
ボロくなったアパートには僕と管理人のおばあちゃんと大学生が住んでいた。
立地条件は最高
建物は最悪
でも、家賃は結構安くて、ひきこもる生活をする僕にはちょうど良かった。いまどき珍しく、おばあちゃんは僕のことをよく、気にかけてくれた。大学生はよく部屋を明けているらしく、たまに帰ったと思うと物音一つしない。僕が想像するに寝ているのだと思う。
しかしながら、こんな生活も長くは続かないようで、建物の老朽化を理由にアパートは取り壊されることになった。よくある話だ。まぁ、そこで問題になるのが次のすみかである。ここと同じような家賃の物件はそうない。
どうするか。
もちろん、ひきこもりの生活を送る僕には十分な貯蓄はない決して親のすねをかじっているわけではないが、最低限のバイトで暮らしている。社会人になってこれは・・・、と聞き飽きるぐらい言われた。僕だって昔は夢があった。希望があった。でも、かなわなかった。志望する大学に落ちた。努力することにつかれた。
こんな僕のことを両親がどう思っているか、長らくあっていないので正直よくわからないが、きっとダメな息子とおもっているだろう。しょうがない、とりあえず街に出てみよう。バイト先の近くのコンビニと、小さいスーパーに向かう道以外を通るのはいつ振りだろう。
町は変わっていた。
人も変わっていた。
ショーウィンドウ越しに自分の姿が見える。野暮ったい髪。伸びたTシャツにジーンズ。履き古した靴。いつの間に僕はこんなになってしまったのだろう。
来た道を戻る。
ものに埋もれていた鏡とハサミを持つ。新聞紙はないから、大きめの袋を切りさき床に敷き詰める。
―――シャキ
鏡に映った自分の姿にひっそりと笑みを浮かべた
無くなってしまうのならいっそのこと、もう一度いちから始めようか。