表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末病  作者: 綴岐レス
1/13

序章1.忘却の彼方

パンツ1枚で寝るな


 自室のベッドに寝転がり雑誌を流し読みしていた私は、唐突に口を開いた彼の方を見ることもなく曖昧な返事をした。


きっと「んー」だの「うー」だったかと思う。よく覚えていない。もう少し言えば読んでいた雑誌の事もよく覚えていない。私は眠たかった。


「仕事辞めました」


「へー」




 数秒後突然部屋のドアが閉まる音が聞こえたので、彼は出ていったのだろう。私はどうしよう、酷く億劫だがシャワーを浴びて寝てしまうことにしよう。


 浴室を出た私はショーツ一枚にバスタオルのままベッドに飛び込んだ。

本当は裸一貫で布団に引きこもりたいところだが、初めて彼に見られた時、いつもは温厚といって差し支えない彼が意外にも怒ったので(怒ったといっても怒鳴り散らすというわけではなく、口数が減ったり目立たない愛想が更に控えめになったりといった程度のことだ)せめて下くらいは隠す事にしたのだ。梅雨に入ってもう数週間が経つが、この辺りは梅雨の時期も朝晩は割と冷える。Tシャツの一枚でも着たほうがいいのかもしれないがもう身体が思うように動かない。渾身の一撃で濡れたバスタオルを椅子にぶん投げる。そろそろ本格的に寝入ってしまうのだろうと他人事のように考えながらズルズルとシーツに身体を埋めていく。




 そういえば、なんだったか。




彼はさっき何かを伝えにここに来ていた。部屋の閉まる音だけがおぼろげに記憶に残っている。

閉まる音は静かだったはずだ、多分。そう剣呑な話題ではなかったのだろう。


 彼との生活が始まって、もう一年近くになる。

さっきの「パンツ一枚事件」みたいに、彼はそういう一般的な倫理観を割と尊重するタイプで、控え目で大人しくていかにも気が弱そうな見た目の癖に芯は意外としっかりしている。それとちょっと馬鹿だ。

 会社の同期だった私はその彼のそんなには悪くない見た目に惹かれて何度か食事をした。人間、ご飯を何回か食べればどんな人間か分かるもんで、彼も度々その魅力の片鱗を見せてくれた。


そんなこんなでこうして私は、一人で契約している賃貸アパートに彼をこっそり住まわせているのだった。

もちろん割り勘だ。


 そう、その彼がさっき、私の部屋で何か言ったのだ。なんだっけか。


 仕事、辞める…?


現実感のないその言葉を反芻しているうちに、いよいよ睡魔が本気を出したようで私はあっさり眠りについた。


いちゃいちゃしやがってよ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ