優しい春の聲
youtubeで目が不自由な方の動画を見た時に
初めて何かを文章にしてみたいなと思い書きました。
誤字脱字、言い回し、改行、濁点など至らない点が数多くあると思いますが
最後まで見ていただけると嬉しいです。
おれは天使、天使と言っても特にやることも無く人間界に降りてぼんやり過ごすのが日課だ。
人間界は綺麗な所が多く、景色を眺めるのが何よりも楽しく安らぐ。
最近は自然豊かな場所に小さな湖がある一本木の桜が咲く場所がお気に入りだ。
この場所を見つけ、桜が咲く季節に訪れるようになって3度目の時、人間の夫婦が赤子を抱えて来るようになった。
俺だけのお気に入りが人間に見つけられてしまった。
4度目の春。
いつものように桜の木に降りぼんやりとしていると去年来ていた夫婦がまた来ていた。
赤子は歩けるまでになっていた。
5度目の春。
また来ているなあの親子。
人に広めてない辺りは評価する、騒がしいのはあまり好きではないからな。
6度目の春。
あの赤子も走り回るまでに成長していた。
そして毎年のように来ていた親子に変化があった。
12度目の春。
今年は男の人間が来ないのか母子だけで来ているようだ。
赤子だった子も可愛らしい女の子に成長していた。
13度目の春。
母であろうあの女は車椅子に乗っていた。
老婆に車椅子を押されまた今年も来ていた。
女を桜の木下まで連れて行くと老婆はいなくなり、女はただ何をするわけでもなく
ただ、ぼーっとしていた。
この春、少女は来なかった。
次の春も、その次の春も、母であろう女と老婆は来ていたが
少女は姿を見せなかった。
19度目の春。
少女とあの時車椅子を押していた老婆が
少女の手を引き姿を見せた。
背も伸び顔も可愛らしく成長していたが、あの頃の面影がありすぐに分かった。
少女は桜の木に背を掛け座り込み老婆はどこかに行ってしまった。
それからも、ただ何する事もなく毎日来ていた。
20度目の春。
今年もまた老婆に手を引かれ
いつものように座り込み「お母さん、お母さん」と繰り返し、来る度に泣いていた。
「毎日泣いてうるさいやつだ
少し脅かしてみるか、天界では人間に姿を見せるのはタブーらしいがまぁいいか。」
羽を広げ少女の前に立った。
「なに!?」と
こちらを見て少女は言った。
「何を泣いている?」
「誰!?」
「天使だ」
少女は凝視しながらなにか不審がるようにこっちを見ては背を向け走って行った。
が
すぐ転んでしまった。
「大丈夫か?」
「嫌っ!!来ないで!!」
「どっちを見ている、おれはこっちだぞ?
今の姿は見えるようにしている...声が聴けてるって事は姿も見えるはずなんだが」
彼女はこちらに振り向き睨んでいるので浮いてみせたが、目がおれを追っていなくただ一点を見ていた。
「お前、目が見えないのか?」
「そうよ!それがなに!?」
「いや、お前小さい頃ここを走り回ってたじゃないか」
「なんでそんな事をあなたが知っているの!?」
「ここはおれのお気に入りの場所だ。
毎年桜の咲く季節はこの桜が散るまで木の上に寝そべってのほほーんとしている。だから毎年お前の事は見ていたぞ」
「ごめん、なにいってるのかわからない」
「そうだなぁ
お前の名前はさくら、母の名は香、父の名は獠、両親共に桜が好きで桜のように綺麗で可愛らしい子に育つ様にと付けられた名前だったかな?」
さくら「ホントにずっと見ていたの?」
「見る気も聴くきもないが話し声とお前達が視界に入るから仕方なくな」
さくら「そう...パパは事故で亡くなって
ママは病気で死んじゃった。今は祖母と二人で暮らしてる」
そっか...だからあの時。
父獠は姿を見せなくなり、母香も...
「君のママは車椅子に乗って毎日来ていたけど急に来なくなった。病気だったんだな」
さくら「うん。ママは毎日来てたんだね
祖母と二人でいつもどこ行ってるんだろうと思ってたけど、よっぽどここが好きだったんだね。ママはここに来て何か言ってた?」
さくらの母香はいつも一人でぼーとしていたが、時折桜に向かってさくらをお願いしますと言っていた。
何度もあの子の目が治りますようにって
きっと、自分の死期が近い事に気付いていたんだな。
自分の病気より娘の心配か
「お前の母香はこの桜に向かって何度もお前の目が治りますようにと祈っていたぞ。
お前の幸せを願って」
さくらは嗚咽し泣きじゃくった。
ママ、ママと何度も言って
20度目の春、最後に見た香の姿を思い出した
早くに下界に降りて来てしまい翼を広げ蕾が残る桜を見ていた時に
さくらの母香がいた。
その姿は痩せ細り、毎年来ていたこの場所に19回目の春来れなかったのはやはり病気のせいだったのかもしれない。
母香はこの日を境にこの場所に姿を見せなくなった。
だけどこの日、さくらの母香は桜の木に手をつき話しかけているなか
何度か顔を上げこっちを見ては目があった気がした。こちらを向いて笑いかけ
「ありがとう。娘をお願いします」と言ったあれはおれの事が見えていたんだろうか。
死期が近づくと姿が見えるとか聞いた事がない。
ただ、偶然とも思えないんだ
天界では人間に天使の力を使うと翼を失い
二度と下界に降りれなくなるという
だけど今はこの少女に
ただ泣き止んで欲しいと、心から思った
「老婆...じゃない祖母のばあちゃんが迎えに来たみたいだぞ。そろそろ泣き止め」
少女は泣き止み祖母に手を引かれこの場を去っていった。
それからと言うものの
さくらは毎日この場所に来るようになった。
さくらの誕生日に何をあげるか迷っていた父の話
さくらが香と喧嘩して父と一緒にどうやって謝るか相談していた時の話
自分の嫌いな食べ物を持って来ては桜にあげると言って捨てに来てた幼少のさくらの話
どうやったらさくらが野菜を食べるようになるか献立を考えていた香の話
神様のバカヤローと大声で叫んでいた香の話
この場所で聞いて起こった色んな話をさくらに聞かせてやった。
さくらもおれに心を開いたのか家族の話をするようになった。
父は温厚で優しく香には頭が上がらない性格だったとか
香は大雑把で明るく気の強い性格に父は惹かれたとか、楽しそうにおれに話してくれた。
さくらは笑うようになり、それにつられておれも笑って、さくらと話すこの時間は
とても心地よかった
さくら「君の声は不思議だね。あったかくて、とっても優しい
ねぇそう言えばまだ名前知らない」
「ハル・リュカエル」
さくら「へぇーじゃハルだね!」
ハル「好きに呼べ」
さくら「私がさくらであなたがハルって何か親近感わくね!」
ハル「そうか?」
さくらはそうだよと言い笑みを浮かべた
さくら「春が来ないと桜は咲かないんだよ」
ハル「何を当たり前な事を言ってるんだ?」
さくら「分かってないなぁ乙女心を
そうだ!羽があるんでしょ?触らせてよ!」
さくらの前に立ち座り羽を広げてみせ
さくらの手を取り羽に触れさせた。
さくら「ホントに羽なの?手触り良いけど
見えないからってよくわかんない物触らせてるんじゃないの?」
ハル「お前なぁおれの高貴な羽を触って何だその言いようは、ほらそのまま辿れば肌と密着してるのが分かるだろ?」
さくら「ホントだ、どうなってるの?引っ張ってみてもいい?」
ハル「あんま強く引っ張るなよ」
さくらは羽の付け根から思いっきり引っ張った
ハル「いってぇぇえぇぇ!!」
さくら「ごめん!けど、ホントに羽なんだね
まだちょっと疑ってるけど信じるよ!」
ハル「お前なぁ」
その表情は明るく何でも許せる気さえ起こさせる、そんな笑顔だった。
それからも毎日祖母の迎えが来るまで何時間も話し、桜の木に二人で持たれ寄り添い
時には何も話さずただ時を過ぎるのを待ったりした。
ハル「さくら、その目は治らないのか?」
さくら「うん、治らないよ」
ハル「辛くないか?また見たくないか?色んな景色や、ここにある桜を」
さくら「うーんそうだね、すごい不便だし辛くないって言ったら嘘になるかな。
それにまた見てみたいって思うよ、けど大丈夫!見てきた大事な物は全部覚えてるから。ママやパパの顔もこの場所の景色も」
そう言った彼女の顔は笑顔だったけど
どこか儚げで悲しい表情にさえ見えた。
さくら「けどハルの顔見れないのは少し残念かな」
ハル「おれの顔見たらお前なんかすぐ惚れてしまうぞ、まぁ見えないお前にしか言わないけどな」
その自信はどこから来るのかと
楽しげに笑う君はとても暖かい存在で
見えてても惚れませんと言う君の笑顔に
もう一度光を見せたいと思った。
さくらの手を広げ落ちている自分の羽を置き
手を重ねた。
ハル「なぁさくら、この羽は君の願いを叶える羽だ大切にして欲しい。
少しこのままで眠ろうか」
さくら「うん、わかった。大事にする」
彼女の手は暖かく大事にすると言ったその表情は何よりも綺麗で、このままずっとこの場所に居たいとすら思えた。
香、今君の願いを叶えるよ
さくらは数時間後目を覚まし
目を開けた。
さくら「あれ...私寝ちゃって...
...
...
...
見える...みえる!!
ハル!!私目がみえるように!
ハル?ハルどこにいるの!?」
さくらは必死に探した
何度も、何度も大声で「ハル」と呼んだ
次の日もその次の日も桜が散ったその後も
何度も...何度も叫び
名を呼んだ。
さくらが寝ている間におれは力を使った
顔を見せるときっと別れを惜しんでしまう
これでよかったんだ。
力を使ってすぐに天界へ帰り、大天使に呼び出され羽を失ってしまい
下界に降りられなくなってしまった。
そして21度目の春が訪れた
天界では「リュカエルが力を使った人間がまだ探してるぞ」と天使達が騒いでいたので
おれの耳にもすぐに入ってきた。
羽を持たないものは力の源でもある恩寵も失うため下界の様子を映し出す事も出来ない
ハル「おい、お前!その話は本当なのか?頼む!下界の様子を映してくれ!」
天使はいいぞと返事をしあの場所を映してくれた
そこには時折俺の名を大声で呼んでいるさくらの姿があった。
探しているのか?今もおれを
会いたい
会って話がしたい
目を見つめ話したい
君に触れたい
天使A「何だお前会いたそうだな、堕天使にもなって会いに行くつもりか?」
ハル「どうゆう事だ?羽がなくても下界に降りられるのか!?」
天使B「天霊下の森から下界に行けると聞いた事がある、道は険しく道のりも果てしないと聞いた」
天使A「無事下界に行けたとしても恩寵を持たないお前は身体を崩壊しすぐに堕天使になるぞ、天界へも帰れず永遠霊体のまま下界に閉じ込められる」
ハル「それでもいい!!案内してくれ!!」
天使達は阿呆を見るような目で案内をしてくれた。
ハル「ありがとう」
天使A「お前みたいなバカたまにいるんだよな。まぁ...会えるといいな」
そう言って天使達は去っていった。
おれは森に入り走った。
とにかく走った。
早く会いたいその想いで。
ひたすらに走った。
案内をしてもらってる最中天使が
強く思っている場所に繋がると言っていた。
あの場所を、
小さな湖がある一本木の桜が咲くあの場所に。
強く思い走った。
どれくらい経ったのかもわからないまま
ひたすらに走った。
...
...。
「あの、すみません!大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?」
さくら?さくらの声が聞こえる...
何か懐かしい声で意識朦朧としてる中
おれは目が覚めた。
ハル「さくら、やっと会えた...」
・・・「やっと起きた!しっかりして下さい!」
身体を起こし少しずつ意識が冴えていく中
周りを見渡すとあの場所に帰って来ていた
そしてそこには見知らぬ女性が居た。
ハル「似ているが...さくらじゃない?お前は誰だ?」
「誰って、私は風香です。
さくらって私の祖母の名ですよ、
祖母にはよく若い頃の自分に似ているって言われますけど...って
もしかしてですけど、あなたがハルさんですか?」
ハル「あぁそうだハルだ。って
祖母?どう言う事だ?」
風香「おばあちゃんからよく話を聞かされてたんです。この場所が好きなハルと言う名の天使がいると。目を治してもらいそれ以降会えなくなったと、それとこれを」
羽?これはおれのか?
風香「おばあちゃんがもしこの場所でハルという天使に会ったら返して欲しいと」
あぁあの時の
まだ持っていてくれたのか
ハル「さくら...いや、君のおばあちゃんは亡くなってしまったのか...」
人間の寿命は短い
それでいて尊い
あの森を抜けるのにそんなに時間が経ってしまっていたのか。
風香「あの、勝手に死なせないで下さい
まだ生きてますよ」
生きてる...さくらがまだ...
伝えたい事があるんだ
まだ言えてない言葉があるんだ
会いたい...会いたい...
会いたい!!
ハル「さくらに会わせてくれ!!」
風香は二つ返事で了承してくれた。
さくらは危篤で意識もなく今は病院に入院しているのだという。
さくらは結婚してすぐ夫を亡くして以来
一人で風香の母を育てていた。
さくらは大学を出て身体障害のある子供達を助ける仕事に就きそこでおれとの出会いを綴った絵本を描き出版したらしい。
後で見せてくれると言い、さくらが入院している病院についた。
病室に入り、一つのベッドがあるそこには痩せ細り老いたさくらが眠っていた。
風香「さくらおばあちゃん天使のハルさんが来てくれたよ」
そう言うとさくらの髪を撫でおれに軽い会釈をし、病室を後にした。
おれはさくらの髪を撫で下ろし
手のひらで頬を触り
両の手でさくらの手を取り優しく包み込んだ。
ハル「さくら...聴こえるか?
おれの事ずっと覚えててくれたんだな...
あの場所で返事出来なくてごめんな...
あの時は顔を見せない方が良いんじゃないかと思ったんだ許してくれ。
おれもずっと君を想っていた
ずっとずっと想い続けてきた...
やっとの想いで君に逢えたのに話せないのはこんなにも辛いんだな...」
気づくと、おれは泣いていた
感情が抑えられずただただ泣いていた
さくら「ハ...ル...」
ハル「さくら!!おれだ!!聴こえてるのか!?」
さくら「ずっと...待っていましたよ...
ずっと...想っていましたよ...
ずっと...だいすき...でしたよ...
目を...私に...光をくれて...ありがとう...」
ハル「おれも大好きだ!!
ずっとずっと大好きだ!!
今ならおれの顔が見れるだろ?
惚れさせてやるから目を開けろよ!!」
さくらは徐々に目を見開きおれのことをみた
さくら「綺麗な...顔ですね...けど...惚れませんでした...
もうずっと前から...わたしは...
あなたに惚れていましたから...」
ハル「なに言ってんだよ!
もっと話をしよう!またあの場所に二人で行こう!もっともっと一緒にいよう!」
さくら「もう一度...あの...場所に...いきたい」
おれは風香宛に書き起きを残し
さくらを背で抱えあの場所に向かった
もう一度、ただもう一度
まだ蕾だった桜でもいい。
あの場所にもう一度君と
暖かく優しい風がおれを後押しする
ハル「さくら、もうちょっとで着くぞ!」
さくら「はい...」
やっとの想いで着いたあの場所に
ありえない光景が浮かんだ
さっきまで蕾だった桜の木が
満開に咲き誇っていた。
ハル「ついたよ、さくら」
さくらを桜の木に寄りかかせ
隣におれも寄りかかり座った。
さくら「綺麗...いつみても...ここの桜は綺麗ですね...」
ハル「そうだな、さくら...綺麗だよ」
さくら「ハル...あの時わたしに...
願いを叶えてくれる羽根をくれたよね?」
何が起こっているのか分からなかった
ただ、さっきまで老いていたさくらが
あの頃の姿に戻ったようにおれに笑いかけている。
さくら「ハルは私の願い事はまた目が見えるようになる事だと思った?
それは違うよハル
これからもずぅぅっと!ハルと一緒に居たい!って
そう願ってたんだよ」
そう言ったさくらの顔はとても優しく
とても綺麗な顔で大好きだったあの笑顔のまま、おれの手を握ってくれた。
ハル「おれは香に頼まれたんだよ。
さくらを幸せに。
目が治りますようにって。
香、君のお母さんの事も小さい頃からずっと見ていたんだよ。
この場所で。」
さくらは驚いた表情をし話を聞いた
ハル「久しぶりに見たから最初は分からなかったけど、話を聞いてく内にあの時の子は香だったんだって分かった。
その頃おれはこの木が桜って分からず
夏の日差しが強い日にこの場所を見つけ降りた事があったんだ。
その時に湖で溺れている子供を助けた事があった。
その子が君のお母さん香だったんだよ」
さくらは少し驚いた様子だったが
少し笑みを浮かべ昔話を聞かせてくれた。
それは香が小さい頃に溺れ、その時助けてくれたお礼が言えなくて、いつか「ありがとう」と言うんだとあの場所にいき助けてくれた人の事を探していたという内容だった。
あの時のありがとうはそう言うことだったのか。もうこの場所に来る事が出来なくなるのを知っていて。
偶然目が合い聞いた香の「ありがとう」はちゃんとおれに届いたよ。
おれの方こそありがとう香。
さくらと出会わせてくれて
ハル「なぁさくら、その絵本のタイトルは何て言うんだ?」
それはねぇ私が1番大好きな
【やさしいハルの聲】
最後まで見て頂きありがとうございます。