表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある女性兵士の記録  作者: ショーシカルース
1/3

入隊

我の哨戒部隊と分離派武装グループによる小規模戦闘こそあれど、さしたる異常なし。」


惑星アラクニド派遣軍司令部の公的記録


「上官共の腐れ脳みそのつまった頭を銃でファックしてやる! クズどもが、襲撃現場を見る限りなあ拉致された味方がいやがるんだよ! 最悪なぶり殺しにされるし、おまけに拉致されたのは・・・可愛い子ちゃんときたもんだ! くそったれ!」


宇宙海兵隊即応機動展開部隊 惑星アラクニド派遣部隊所属第40歩兵師団隷下A小隊 隊員の発言より



「宇宙海兵隊は誰よりも早く地獄に降り立つ 我らは誰よりも早く戦地に赴き、道を切り開く


我らは過酷極まりない地獄を行軍する そして我らは勝利をつかみ、生還を果たす


宇宙海兵隊の前に立ちふさがる敵には徹底的な破滅がもたらされるだろう 我らは共和国の最精鋭なり!」


銀河連合共和国 宇宙海兵隊 公式軍歌 一部抜粋




バルバラ・アルベルジェッティ。今年で25歳になる彼女は、黒髪碧眼のイタリア系女性であり、はっきりいって美人だが、美しいばかりの女性ではない。かつて最大の超大国に長靴上の半島から祖先が移り住んだように、宇宙時代突入後宇宙移民したため太陽系外惑星で生まれた彼女の家系は4代前から続く軍人一族だ。彼女の父もその父もまたその父も士官でこそないが軍人として国家に忠を尽くしてきた―最初は母星のために、次は汎銀河国家・銀河連合共和国のために。彼女はこの事実を誇りにしてやまない。


そのため彼女もまた軍人になることを志し、その夢を実現していた。彼女が入隊したのは、陸軍や海軍、空軍、宇宙軍ではなく、銀河連合共和国宇宙海兵隊。


挿絵(By みてみん) 銀河共和国宇宙海兵隊全体の部隊章


共和国軍の先鋒を担う最精鋭集団に彼女は仲間入りを果たしていた。つまりバルバラ・アルベルジェッティという女性は、屈強な海兵隊員であり、一般の男性を素手で軽々と撃退できる猛者だった。彼女は頑強な歩兵だ。


確かに実戦部隊に配備された女性が肉体的な故障を追う割合が後方部隊に対し高いという報告がある国の記録に残っているように、現実的に男女の肉体的な差という物は存在する。それでも数10キロの装備を身に着けたまま機敏に動き、何10キロも徒歩行軍できる彼女に一対一で勝てる男は一般人ではそうそういないだろう。


無論、軍隊に入隊するまでの道のりは大変だった。2010年代以降、先進国では女性兵士を実戦部隊に配備するようになっており、現在もその延長線上にあるが、女性を実戦部隊に配備すべきではないという考えは未だに残っている。これは差別的な意味ではなく、純粋に女性を思いやってのことだ。


そして彼女も女性であるため、家族から軍隊に入隊する事は強硬に反対された。従軍経験のある父も消極的な反対の声を唱え、なにより母親は頑なに反対した。一人娘に厳しい軍事訓練を受けさせたくはなかったのだ。だが、イタリア系コミュニティーの喧騒で育つ中に強固に築き上げられた軍人として国家に尽くすという決意を翻すには至らなかった。


家族を大切に思うからこそ、募兵事務所に一人で乗り込みはしなかったものの、なんとか家族の説得に成功した彼女は高校卒業と同時に宇宙海兵隊に志願した。そうして今では、立派な海兵隊員として完成しているのだが、彼女とて初めから屈強な海兵隊員だったわけではない。


バルバラが新兵訓練を受けたのは、母星の海兵隊駐屯地ではなく惑星クロノスアイランドの海兵隊駐屯地だ。陸軍は各惑星の駐屯地で新兵訓練を行うのに対し、海兵隊ではいくつかの惑星に専用の教育施設を点在させている。そこで彼女は地獄を思う存分味わった。余りの過酷さから脱走を考えるほどに。


銀河連合共和国宇宙海兵隊は共和国最精鋭を自負しており、その標語も『宇宙海兵隊は常に地獄に降り立つ』という猛者であることを示したものだ。極めて危険性の高い敵惑星への効果任務を担う組織であるため、その戦闘能力は高く訓練も総じて殺人的だ。所詮本来の訓練に比べればお遊戯とはいえ、新兵に過ぎない彼女には悲鳴を上げるような訓練が課された。


まず容赦ない罵詈雑言が連日連夜浴びせられた。軍靴の磨き、迷彩服のアイロンがけ、布団の整頓などあらゆる些細な事柄でミスを犯すたびに、聞くにたえない罵声が浴びせられた。これは兵士に命令を遵守する精神を作るために行われる。


あらゆるミスをするたびに怒鳴りつけることで、命令に従わせようという軍隊的教育だ。集団かつ組織的に戦闘を行う軍隊において命令に従わない兵士は価値がない存在だ。そんな理由があってのこととはいえ、毎日教官から人格否定、性差別的な内容も含めて罵られ、バルバラは密かに弱音を零し、人知れずに泣きじゃくっていった。


あれほど入隊したがっていた軍隊に志願したのは間違いではないかと思うほどに。軍隊が必ずしも格好のいい組織ではないと思い知らされたため、ある意味では大人になった瞬間だともいえるが。


それでも彼女は挫けそうになりながらも、訓練を最後までやり遂げた。『宇宙から、陸から』と通称されるように敵惑星に勇躍降下する一人前の海兵隊に訓練を終えた時に彼女は変貌していた。


五感をも再現する仮想現実と現実の世界の両方で行われる訓練を彼女は順調にこなしっていた。それと現実世界で訓練を行うのは、仮想現実上で泥の中を這って進めようと現実で行えなくては意味がないためだ。


敬礼、気を付け、回れ右、頭の敬礼等の軍隊における儀礼的動作。各種銃器に対する座学教育と射撃訓練。座学と実践からなる戦闘外傷へ応急処置する方法。匍匐前進、歩哨、夜営などの歩兵戦闘技術。行軍訓練。体力錬成のためのランニング。化学防護装備の訓練や掩体を掘削する方法。訓練の最終段階である模擬野戦と市街戦演習。


宇宙進出して尚、歩兵の戦う技術に劇的な変化は起きていなかった。一応強化外骨格やサイボーグ技術は存在しているが、それらはコストや整備性から全ての歩兵が装備可能なほど普及していない。


バルバラは全ての訓練段階を終え、宇宙海兵隊員としての新たな産声を上げていた。海兵隊員としての初歩を踏み出したに過ぎないとはいえ、彼女は訓練後海兵隊員として誰もが認める存在だった。

ヤーやエーという海兵隊特有の裂帛の叫び声を勇ましく上げることもできる。


挿絵(By みてみん) 第40歩兵師団上等兵階級章


その後彼女は6年間任期を更新しながら海兵隊員として勤務し続け、階級も上等兵に昇進していた。昇進したのは、階級のみではなく戦闘技術も飛躍的に向上していた。まず射撃能力が格段に向上していた。銀河連合共和国軍は、地球の欧米の軍隊を範として形成されており、共和国宇宙海兵隊はとりあけアメリカ海兵隊を模範としている。


ちなみにアジア圏でも極東の島国は戦術を除いて参考にしていない。国民性の違いから迷彩服の整備等の規律の徹底が厳しすぎ、そもそも政治的事情で殊更規律を厳しくしていた面もあるからだ。何より装備に潤沢な共和国軍にとって、予備の装備品が少ないために歩兵装備をテープで一々固定するやり方は参考にならない。


伝統的にライフル射撃の能力にこだわりを持つアメリカ海兵隊を参考にしているため、同じく宇宙海兵隊でも兵士の射撃能力に注力している。バルバラ自身も射撃訓練には力を入れており、今や実弾・非実弾問わず優れた射撃能力を発揮できた。選抜射手や狙撃手には劣るとも、彼女は卓越した射手だ。


のみならず特技検定として斥候の資格をも取得していた。密かに敵地に忍び寄り偵察を行い、味方部隊の目として敵の目をいち早く察知する存在。僅かな落ち葉を踏んだ後から敵の存在を正確に察知でき、必要とあらば背後に忍び寄って歩哨を素早く殺害できるニンジャじみた技能を彼女は身に着けていた。


男性の兵士にさえ引けを取らない戦闘技能を彼女は身に着けていたが、同時に彼女は欲求不満を抱えていた。これほどまで優れた戦闘技術を備えているにもかかわらず、実戦に参加させてもらえないことに激しい憤りを抱いていた。未だ年若い彼女は、戦場に赴いて国家に献身したいという願望を強く抱いていたのである。


一応実戦に参加したことはあるが、その作戦の最中終始彼女は後方勤務を強いられ続けた。卓越した戦闘技術を身に着けながら、コーヒーだし等を強いられたために実戦に参加したいという欲求はますます強まった。男性の同僚は言わずもながら、同じ女性も実戦参加しているのに安穏とした環境で過ごしているなど我慢ならなかった。


そして実戦に参加したいというバルバラの願いがかなえられる時がいよいよやってきた。海兵隊に入隊して6年目、彼女は分離派武装組織の掃討作戦に従事することを命じられ、分離派武装組織の巣窟の一つである惑星アラクニドに旅立つことになる。


そこで彼女は戦争の負の側面を思い知らされるーあらゆる意味合いで。

実の所r-18作品の非エロパートになります爆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ