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お姫様だっこ

 ボールが……目の前が真っ暗だ。


 ぶつかった衝撃で倒れたらしい。足に衝撃が走る。痛い。目の前には色黒男がいる。色黒男はお姫様抱っこをして、保健室に私を運んだ。


 保健の先生は、あいにく不在だった。


「大丈夫か?」


「まぁね。あんた何やっているのよ」


「心配だから付き添っていたんだって」


「担任だし、顧問だから……ってお姫様だっこしていいと思っているの?」


「あのな、俺は純粋に心配してだな……あの場合、あれ以外運ぶ手段がないだろう」


 顔が近い、この人、よく見ると確かに芸能人風の顔立ちなのかもしれない。


 芸能人に詳しくないけど、この手のタイプはテレビに出ているような気がする。


「足が腫れている。多分足骨折しているぞ。病院でレントゲン撮ってもらったほうがいいな」


 こいつは保護者としての意識が高すぎて、顔が近いことに気づいてないな。


 まぁ私は男同様のボーイッシュガールだしね。


「顔にも打撲だな。少し腫れている。女の子が顔に傷つくると大変だから、気をつけろよ、妹」


「……はい」


 女の子って言われるとちょっとうれしい。妹っていうのもちょっとうれしい。男子にも男扱いされる女子としては、珍しく心がドキドキしている。


「咲原さんレントゲンの結果のお話があります」


 看護師に呼ばれた。こいつ、ついてくるのか。

 本当に心配性だな。大丈夫なのに……。

 保護者面ってちょっとうざい。


「骨折です。全治2か月。」


 診察室を出ると―――


「俺、精一杯サポートするから。足痛いし、ギブスつけているから、歩くの大変だろうけど」

 先生が私に連絡先を渡した。


「困ったことがあったら連絡しろ」

 一緒に住んでいるけど、連絡先は知らなかった。


 年上の頼れる味方がいることは、今の私にとってはとてもありがたいことで、心強かった。そのメモはまるでお守りのようで……。


 先生は生徒に連絡先を教えない。これは例外なのだ。

 妹になるからなのかもしれない。


 先生の肩を借りて、私はギブスのついた重い足を引きずった。足が腫れて痛いが、スポーツ選手に怪我は付き物だ。仕方がないが、試合に出ることなく引退となった。松葉づえは使い慣れていないし、移動がものすごく時間がかかる。先生はいつも以上に優しい。


 このままでいたいような、いたくないような複雑な気持ちになっていた。


 同じ家に住んでいるのに連絡先を聞いてから、自分の部屋で隣の部屋にいるあいつに、どうでもいいメッセージを送ってみることもあったし、すごくまじめに進路を相談することもあった。


 先生がいなかったら、気持ちが潰されていたかもしれない。 

 私はラッキーだ。いい兄貴がいたから、今日を生きていられる。


 私の足が不自由になり、一番大変な時に、先生はいつも寄り添ってくれた。身体的にも、精神的にも。担任としても、そして兄としても。


 この人と結婚した人はきっと老後も安心だと思えるくらい甲斐甲斐しく世話を焼く。赤の他人であるが、いずれ義理の妹になる私のために。はたまた、担任としての義務感なのか。


「お姉ちゃんとはうまくいっている?」

 メッセージで聞いてみた。


「どうだろう……」

 あいまいな返事だった。


「今後、もっと大けがして私の体に傷がついたら、ますます嫁の貰い手がなくなるよね」


「そんなわけないだろ」


「だって、傷のある女よりきれいな体のほうがいいでしょ」


「おまえはどうしてそんなこと考えるんだよ? 余計なこと考えるな」


 この人はまっすぐで熱い男だ。

 南の熱帯地方並みの熱意を持った男だ。

 この人ならば自由奔放な姉とうまくやれると思えた。

 真面目で浮気をすることなく添い遂げられそうだ。

 そして、こんな良い人と結婚できる姉がうらやましくもあった。


 良い人みつけたね、お姉ちゃん。



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