責任取って
「先生、私の夢。見ていたでしょ?」
「いや……違うけど」
「あかりって名前、呼んでいましたよ」
「そう……だっけ??」
さっきの唇の感触? 俺はキスでもしたのか??
「俺、なにかしたのか?」
「抱きしめてキスしたくせに」
先生の顔が、耳まで真っ赤になって、土下座して謝られた。
「こーいうところが古くさいなぁ。まだ若いのに」
「本当にすまない。眠っていたとはいえ、そんな不謹慎なことを嫁入り前の女性に俺がしたなんて。謝っても謝り切れない」
「じゃあ、責任とってくれる?」
「責任って……?」
土下座状態の先生は下から見上げた。
「ここのうちにずっといて」
私は上から少し偉そうに命令した。
「でも、赤の他人の俺がそんな図々しいことできないだろ」
「あと数か月で私は卒業するよ。卒業したら付き合っても問題ないよね」
「俺でいいのか?」
「逆に私ではだめかな?」
「だめとか……そーいうわけではなく。……今は担任だから」
「好きなの? 私のこと。寝言で呼ぶくらい」
先生の顔は更に真っ赤になっていた。先生はまっすぐ私の目を見て
「卒業したらちゃんと付き合おう」
手を差し出した。握手だ。
手をちゃんと握ったのは、これがはじめてだ。
「いつから私のこと好きだったの?」
「……忘れた」
私も彼も、この日、握った手を洗えないでいたことは、お互い知らない事実だった。