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姉の婚約者が私の担任とは? 同居生活がはじまった

 これは一か月ほど前の出来事。今思っても本当に腹立たしい。この男が、私の担任になるなんて! お義兄ちゃんになるなんて!! 絶対に嫌だ!!


 私が高校二年だった時――――

 私の姉と高校の先生をしているという男が婚活パーティーで出会い、婚約したのだ。

 姉は日本全国、いや、世界を飛び回る音楽家で家にいることはほとんどない。

 姉の婚約者がなんと私の高校に転勤になり、今まで住んでいた町から引っ越すことになった。我が家は、私の高校の近くで、 


「アパートを借りるくらいならうちに住みなよ」と姉が提案したのだ。


 お姉ちゃん普段、ほとんど家にいないのに……。


 姉は、サバサバした性格で、結婚も1回会っただけで自分からプロポーズしたらしい。白黒はっきりしている性格だ。美人で明るい姉なので、今までも彼氏はいたのだが、姉が忙しくて連絡をまめにしないから、別れることになるというパターンで、長く付き合っても結婚できないでいた。だったら最初から結婚前提で付き合おうという発想の持ち主だ。


 流牙りゅうが 寿ひさし


 これが同居することになった男の名前だ。

 4月になり、私の担任になることが決まったと報告があった。新学期前に担任になるという事実を私たち家族は知った。姉も含め、みんな大喜びだった。普段の仕事ぶりもわかるし、人となりももっと知れるわけだし。私は今後、義兄になるかもしれない男が担任になるなんて正直うんざりしている。


 体育会系の体育教師は暑苦しい。表向きは笑顔だが、本当の自分を見せていない感じがして、無理に笑顔を作っているような感じが嫌いだった。


 なんで、この男、一回で姉のプロポーズを受けて、結婚しようと思ったのだろう? 1回会ったくらいで好きになるものなのかな? 一目惚れとか? お姉ちゃん美人だし。この人、そこまでモテない感じでもないし、まだ若いのに。私は、勝手な老婆心で少々こいつの将来を心配していた。しかも、急に同居だよ。気を遣うし、嫌じゃないのかな?


 私は嫌だよ。なんで赤の他人と一緒に住まなきゃいけないの?

 結婚相手の親に結婚前から気を遣う生活は、普通選択しないでしょ?

 しかも、お姉ちゃん、ほぼ自宅にいないし。


「4月から学校でもよろしくな」


 微笑む新担任。色黒のスポーツマンはあまり表情を表に出さない。基本、穏やかな男だった。

 こちらは全然よろしくないですが。

 義兄になる予定の担任――


「今は流牙先生と呼べよ、咲原あかり」


 私の姉とこの教師が交際していることは、秘密にしている。私とは、ここではただの担任と生徒だ。

 家族の話はここではしないことにしていた。この男、新任の流牙は若いし、サッカーをやっていただけあって、生徒に人気があるようだ。飾らない性格がうけるのかもしれない。


 新学期お決まりの


「先生、彼女いますかー?」


「結婚前提でおつきあいしている人がいます」にこりと笑う。


 相手がいたほうが、高校の教師はいいらしい。

 下手に女子生徒が付け狙わないだろうし、予防線を張れる。

 これは、後になって本人に聞いた話だ。


「流牙先生でよかった」という噂話が聞こえてくる。

「サッカーでは全国大会に導いた選手だったらしいよ」

「彼女ってどんな人だろうね」


 みんなあの男に興味津々だ。

 あんなぶっきらぼうで適当な男のどこがいいのか、さっぱりわからない。


「朝練か?」


 流牙が早朝に出勤してきた。

 私は、流牙が顧問をしている女子サッカー部のキャプテンだ。

 キャプテンあかりと呼んでほしい。


「そうだけどほんと最悪だよね。あんたが担任なんて。悪いことしていないかチェックするからね。気を抜かないこと」


「遊んでいる暇なんて、ないっつーの」


 朝空を見上げながら、流牙が本音を少し見せた。


「俺の人生は、サッカーばかりの人生だったから。俺はケガと家庭の事情のため、プロになることが難しくなって、公立高校の体育教師をやっている。そんなつまらない人生だけどな。選手としては、落ちこぼれだ」


 彼の闇を少し見たような気がした。

 本当にやりたいことができないまま、大人になった人。

 頑張れば何でも願いがかなうわけではない。

 酸いも甘いも知った大人なのだと改めて思った。

 生徒の前では華やかにみえるけど、結構苦労人なのかな。

 仕事ぶりは結構真面目で、早朝から夜遅くまで働いている。

 休日は基本ない。あっても家で仕事だとか、意外と地味な生活だ。

 姉とはデートする暇もなさそうだった。

 姉自身も仕事が忙しい上に、連絡もまめじゃないので、まさに居候状態。

 すれ違いのカップルとはこのことかと思う。

 生徒との距離が、ほどよく近い流牙は、生徒に好かれていた。

 女子生徒は流牙と仲良くなりたいらしく、話しかける生徒も割といた。

 むくわれない恋をする女子生徒を見て、吐き気がした。

 無駄な時間を過ごすことほど馬鹿なことはないと思う。

 私は時間の無駄遣いをしたくないし、誰かを好きになるのも面倒だった。

 そのような性格だから仕方ない。それが私らしいのだから。


 隣のクラスの担任も若い女の先生で、その先生といると生徒たちが噂する。

 いい感じじゃない? って。いやいや、ただ少し話しているだけなのだけど。

 スタイルのいい若い二人が立っていると絵になるのだ。

 女性の先生は国語の先生でまだ独身だ。顔はわりとかわいい。

 彼氏もいないらしいので、流牙を狙っているのでは? なんていう噂までたつ。

 老教師が多いせいか、若い教師は目立つのだ。私たち女子はいつかおばさんになる予備軍。

 噂話やスキャンダルが大好きなのだ。私は正直どうでもいいけど。



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