記憶
「44週目の結果報告だよ」
いつものようにイアがスクリーンの中で語り出す。
「今週亡くなったランカーはこちら」
まるで、映画のエンドスクロールのように亡くなった人の名前が流れ出す。
ユズトは出かける準備をしており、全く見向きもしない。
「今現在ゲームに参加しているランカーの数は687,314人だよ」
「今週までの総合トップ10のランカーはこちら」
「じゃあ今週もハイランカー目指して頑張ろう!」
いつもの決め台詞と共にモニターの電源が落ちる。
出かける準備を終えると、空間転移装置の上に立った。
「転移。ゲームセンター」
カウントダウンと共にユズトは部屋を後にした。
(今日は何しようかな)
ユズトはいつもやっている音ゲーをするのか、違うゲームをするのか悩んでいた。
そして、軽く悩んだ挙句、違うゲームをすることにした。
VR型FPSだ。
VRを装着すると、ユズトはその世界に没頭し出す。
正直ユズトは今置かれている環境も悪くないと思っていた。
確かに2年後は確実に死んでしまうだろう。
でも、ここは施設が整っていて、何不自由なく遊べる。
毎日タダで遊べる。
元の環境では絶対にありえないことだ。
ユズトはあの日誓ったのだ、3年間遊び尽くして人生を終えることを。
2時間ぐらい経った頃だろうか。
ユズトは休憩のためポイントでジュースを買うことにした。
施設自体は無料で使えるのだが、それ以外は有料なのだ。
とは言っても、多くのポイントを請求されることはないので、今あるポイントだけで充分であり、ポイントを稼ぐ必要はなかった。
ランクも日に日に落ちていくが、今更上位10パーセントに入ることは無理だと悟っていた。
ベンチに座り、ジュースを飲んでいると、どこかで見たことあるようなイケメンなアジア系黒髪の青年が急に話しかけて来た。
ユズトにとっては、久しぶりの会話かもしれない。
「君、いつもこうやって遊んでいるの?」
「ま、まあ」
ユズトは無愛想に返事を返す。
「ふーん」
青年は相槌を打ちながら、目の前にあるジュースを買った。
「もし、君がそんなにポイントを必要としないなら、僕に頂戴よ」
なにを言い出すのかと思ったら、ポイントの請求だった。
「すみません。俺、そういうの全部断っているんです」
ユズトは丁寧に断る。
「だって、もう必要ないんでしょ?」
青年はなかなか引き下がらない。
「いや、ジュースとか買えるし……」
「ジュースなんて、1本でたったの1ポイントじゃないか〜。ジュース代ぐらい残してもいいって!」
「だから、無理ですって!」
しつこい青年にユズトはだんだん腹をたてる。
「別に使わないなら勿体無いじゃん」
「いや、使うかもしれないじゃないですか?」
「使う? ハイランカーを目指しているわけでもないのに?」
確かにその青年の言う通りだった。
ハイランカーを目指していないものにとっては、ほとんど使うことないし、すべてのポイントを使い切れないに等しい。
そんなもの持っていても全く意味がなかった。
それでも……。
「やっぱり諦めていないんだね」
「そんなこと……」
「なんか、君みたいなのを見ていると無性に手を差し伸べたくなるね。気に入った!」
青年はそう言うとユズトに手を差し伸べてくる。
「僕が君を上位10パーセント以内に引き上げてみせるよ」
似たような光景を10ヶ月前にも見た気がする。
ユズトはマイクをその青年にあてていたのかもしれない。
ユズトは目に涙を浮かべながら、気づけばその青年のの手を握っていた。