5秒間
気づけば、辺りは夕暮れになっていた。
ユズトは今のランクを確認する。
ランクは440,732位になっていた。
(これだけ殺しても40万代か……)
半分以上になっただけでも良いほうなのかもしれない。
だが、ユズトの心はズタズタになっていた。
男は空間転移装置のある方向に顔を向け、撤収する合図を送る。
ユズトは軽く頷き、転移装置がある方向にトボトボと歩き出す。
二人して歩いていると、途中で男は翻訳装置をユズトに渡し、装着するように合図を送った。
「まあ、初めては誰でもこうなるさ。そうだ、もし良かったら明日も一緒に行動しないか?」
ユズトは男の顔を見る。
男は満面の笑顔を浮かべる。
ユズトにとってはここに来て初めて信頼できる人に会えたのだ。
男は手を差し伸べる。
ユズトも男の手を握り深い握手を交わした。
「そういや、まだ自己紹介していなかったな。俺の名前はマイク。これからよろしくな! あと、明日からちゃんと翻訳機持って来いよ!」
「ユズト」
ユズトは相手にもわかるように、自分の名前だけ相手に伝えた。
「ユズトか。いい名前だ」
そんなやり取りをしているとき、目の前に緊急という文字が表示される。
そして、自動翻訳機からは警報音みたいなのが流れ出した。
「なんだ? なんだ?」
ユズトは慌てて、自動翻訳機をマイクに返した。
周りの人もとても慌てている。
マイクがなにか言っていたが、とにかく早く行こうという合図を送ってきた。
ユズトは頷き、走って空間転移装置のある場所まで走る。
その時、横から、3メートルぐらいの高さはあるだろうか。
人型といっても、人に似つかない、ゾンビ映画にでも出てきそうな気味の悪い生物が走ってきた。
それもものすごいスピードで。
その生物の近くにいたランカーは急な出来事に呆然としている。
だが、近くにいないものはあの生物に気づいていない。
危険生物を見てパニックになっているものと、警報を見てパニックになっているものがいる中、ユズトはしっかりとその生物を捉えていた。
そして、次の瞬間。
その生物の近くにいた3人のランカーの頭が一瞬にして、吹き飛んでしまった。
鈍い音を立てて。
その場にいる誰しもが静まり返る。
5秒ぐらい経っただろうか。
それを目撃したランカーにとっては、とてつもなく長い5秒だったかもしれない。
その瞬間、悲鳴があちらこちらで聞こえ出す。
その場には数千人もいたのだから、カオス状態だ。
その生物は近くにいるランカーを次から次へと殺していく。
人間がトマトのように破裂し、バタバタと倒れていく。
しかし、ユズトの目には不可思議な現象にしか見えなかった。
なぜなら、その生物はランカーの近くに突っ立っているだけで、何も動いていないように見えたからだ。
中には、ポイント狙いで立ち向かっていった強者もいた。
だが、数秒後には変わり果てた姿になっていった。
ユズトは恐怖なのか、現実を受け止めれいないのか、口を開けたまま硬直している。
マイクはそんなユズトに気づき、手を引いて無理やり空間転移装置まで引っぱってゆく。
空間転移装置自体はあちらこちらにたくさん設置されているので、人が多くてもすんなりと使うことができた。
空間転移装置同士の間隔はとても広いので、別の場所に向かうよりかはここにある空間転移装置を使った方が断然早いとマイクは悟った。
しかし、運が悪いことに人型生物はこちらに向かって、ものすごい速さで向かってくる。
それもそのはず、生きているランカーの中で一番近い距離にいるのだから。
そう、他に近くにいたランカーはすでに全員亡くなっているのだ。
何百単位で。
とは言ってもまだ数十メートルはある。
マイクはユズトに先に使うように促す。
ユズトは急いで、転移を自室に指定する。
カウントダウンが始まる。
たった5秒足らずなのに、とても長く感じる。
(早く……早く……)
カウントダウンが1になったとき、マイクの後ろには既にその生物がたたずんでいた。
マイクは何を思い、悟ったのか、満面の笑みをこちらに向ける。
ユズトは手を伸ばそうとするが、次の瞬間、ホテルの部屋に戻っていた。
貯蓄も無くなってきたので、急がねば!