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情報戦線  作者: カルロス藤崎
1/3

炎の抜け道(前編)

 


 そこは、7年前に突如、魔王が現れた世界。

 8つに分かれる世界の中央の海に魔城を建て、圧倒的な支配力と勢力によって、魔王は世界の征服を測った。

 それにより、8つの国は同盟を結び、それぞれの軍隊の国は魔王軍と戦争を始めた。戦争は泥沼化し、お互いの戦力は大きく削がれ、戦争は一時的に冷戦状態と化した。

 その結果、8ヶ国はこれから魔王軍といつ戦争になっても良いように「冒険者」という職を作り、その中で使い物になる者には「上位クラス冒険者」として国の戦力として整えるようにしていた。

 そして、これから一声目を話す彼女もまた、その冒険者となって、魔王討伐を目指すものの一人だった。


「………あー、暑いです……」


 そうボヤく少女は、洞窟の床や壁や天井に埋め込まれた特殊なクリスタルの中で燃え続けている炎によって、灼熱地獄とも言えるダンジョンの中で、汗をダラダラ流しながら歩いていた。

 その後ろを歩く男は真顔でその呟きに返事をした。


「だから、言ってんじゃん。イエティのウンコあげるって。これあれば30分は保つから」


「いりません!というか、女の子の前で汚い言葉使わないで下さいっ!」


「えー、いらないの?イエティのウンコ。イエティのウンコ」


「なんで二回言うんですか⁉︎ていうかわざとでしょ今!……って、大声出させないで下さいよ!暑いんですから!」


 ポケットにイエティの大便を入れて涼しげな男に食いかかる少女は大きくため息をついた。

 _______ほんと、どうしてこうなった、と。



 ×××



 数時間前、少女___坂本龍海は自分の道場の師範、勝海縁と他二人を共にワノ国の街を歩いていた。

 冒険者は上位、中位、下位に別れていて、その中でさらに扱う武器毎によって「クラス」が存在する。ワノ国は8つの国の中でも近接武器を扱うクラスの冒険者の育成に力を入れていた。

 勝海縁の道場は、ワノ国の冒険者育成道場の中で優秀な冒険者を多く生み出していて、国に役職を与えられている冒険者である上位冒険者の出身は4割が、その道場の弟子だった。

 その道場の新人の中で、早くも中位近接格闘クラス「アタッカー」になった龍海は、自分が海縁に連れられている理由を聞いた。


「師匠ー」


「なんじゃ?坂本」


「坂本さんを何処に連れて行く気ですか?」


「着けば分かる。ていうか、自分の事『坂本さん』と呼ぶのはやめんか。すごいバカっぽいじゃろうが」


「むー、さっきからそればかりです。陸奥さんは何か知りませんか?」


 陸奥宗方、龍海の先輩に意見を求めるも、陸奥は首を横に振った。


「知ってるけど教えない」


「知ってるけど⁉︎」


 宗方もアタッカーで、剣の腕は現在の道場でもかなり上位に食い込んでいる。そんな宗方に龍海は好戦的に微笑んで言った。


「そういう意地悪言うなら、今ここで吐かせても良いんですよ?」


「あ?この前それで泣かされたのは何処のどいつだよ」


「あっ、あの時は膝を蚊に刺されてたから仕方なかったんです!今日の坂本さんは違いますよ!」


「蚊に刺されただけで戦力ダウンする奴に負けるかよ」


「っ!いざ、尋常に勝……!」


「やめんかアホ弟子」


 ガツンッと上からゲンコツが降って来て、龍海は頭を抱えた。


「っつぅ〜……酷いです、師匠」


「ふん、そんな喧嘩っ早いアホ弟子に育てた覚えはないわ」


「……むー」


 ぶたれて不機嫌そうに唇を尖らせてると、宗方が隣で龍海に耳打ちした。


「ぶーたれるな、坂本。後で相手してやるから」


「陸奥さん……!」


「負けた方が明日の昼飯奢りな?」


「はい!」


「よしっ」


 しっかりと言質を取った陸奥を見て、海縁ともう一人の弟子は「明日の昼飯確保しやがった……」と思ったが、毎回騙される龍海が悪いので放っておいた。

 そうこうしているうちに、目的地に到着した。街の端にある小さな小屋、そこに海縁は入った。その後に三人は続いた。


「いらっしゃい」


 中で挨拶して来たのは、黒髪で天然パーマの少年だった。上半身はジャージで下半身はスラックスを着て、首からゴーグルをぶら下げた随分と若い少年。

 18歳だが童顔で若く見えると言われる龍海の目からも若く見えた。


「あ、どうも。カッさん」


「……弟子の前でカッさんはやめろ、イーリス」


 イーリスと呼ばれた少年はふと弟子達を見た。一人、宗方は見覚えがあったが、他の二人は無かったのか小首を傾げた。


「あれ、カッさん新しい弟子?」


「ああ。坂本龍海と武市半次郎じゃ。坂本の方は新人の中でもトップクラスで、そこの陸奥ともやり合える程の実力じゃよ。……勝てたことはないがのう」


「へぇー。……えっと、坂本熱海と武市変次郎でしたっけ?」


「ち、違います!坂本龍海と武市半次郎です!」


「あ、これは失礼。人の名前覚えるのが苦手で……。イーリス=ストロークです、情報屋をやっています。よろしくお願いします」


「…………」


 悪気がなかったのが尚更気に入らなかった龍海は好戦的な笑みを浮かべて返した。


「よろしくお願いします、イージス」


「……あの、イーリスなんですけど」


「あら、これは失礼致しました」


「…………」


 ガキかお前は、と海縁と宗方と半次郎は思ったが、とりあえず口にしなかった。

 一方のイーリスはそれを聞くなり、小さく可哀想な人を見る目を龍海に向けると、海縁を見た。


「で、今日はどうしたの?」


「っ!む、無視ですか⁉︎」


「よせ、お前が悪い」


 食いかかる龍海を宗方がなだめた。

 そのやり取りを全く無視して、海縁はイーリスに説明した。


「お前がここに来たと聞いたからのう。また拠点を移したという事は、この辺りに新しいダンジョンを見つけたから、その下見に行くためじゃろう?」


「よく分かってんじゃん」


「そのダンジョンの情報を買いに来た」


 イーリスの情報屋は二つのパターンがある。一つは、イーリスが持っている情報を売るパターン。そしてもう一つは、イーリスも持っていない未知の情報を依頼されて集めに行くパターンだ。

 今回のように未知のダンジョンが見つかった場合は、必然的に後者となり、安全確認のため、国からの依頼になる事が多い。

 勝海縁は上位クラス「ナイト(ワノ国では侍)」であるため、国に雇われている冒険者だ。その海縁からの依頼という事は、国からの依頼である事をイーリスは察し、表情を変えた。


「……言っておきますけど、これから行くダンジョンはワノ国とイードラの間の砂漠地帯にある。国と国の間の真ん中にあるダンジョンが今の今まで見つからなかったはずがない。つまり、魔王の幹部のアジトである可能性が高い。俺は自分の身が危なくなったら即撤退するし、情報収集もそこまで。それでも良いのね?」


「……ああ、分かっておる」


 海縁にそう返事をされて、イーリスは真面目な表情で顎に手を当てた。

 その二人の様子を見て、自分が今まで尊敬していた師匠が自分より年下であろう男に、かなり下手に出てるのがなんとなく気に入らなくて不愉快になった龍海は、隣の宗方の裾を引っ張った。


「……あの、陸奥さん」


「シッ」


 だが、宗方は人差し指を立てて龍海を止めた。


「言いたい事は分かるけど、イーリスの前で下手な事を言うな」


「……なんでですか?」


「それは……あとで分かる。とにかく黙ってろ」


 宗方にまだそう言われ、龍海は尚更気に入らなくなった。自分より冷静に見えるが、半次郎も内心穏やかではないだろう。

 一言言ってやろうと思って龍海が立ち上がろうとした直後、先に海縁が思い出したように口を開いた。


「あ、それともう一つ」


「? 何?」


「こいつを一緒に連れて行って欲しいんじゃが」


 海縁は親指を立てて、龍海を指差した。龍海は思わず「はっ?」と声を漏らし、イーリスは「また?」と言った顔になった。


「また?」


 顔になるどころか言ってしまった。


「ああ。こいつも、陸奥同様に天才型で実戦経験なく国の試験に合格し、アタッカーになってしもうた」


 下位クラスから中位クラスに上がるには、中位クラスそれぞれの条件にある下位クラスをマスターする必要がある。

 龍海は現在「アタッカー」であり、「アタッカー」になるには、下位クラスの近距離職を三つ以上、マスターする必要がある。マスターする基準は、国の上位クラス冒険者が出す試験にクリアすれば、マスターと見なされる。

 普通なら、外に出て怪物(けもの)や魔物狩ったり、冒険者育成道場で師範に修行をつけてもらいつつ、試験を受けてマスターするものだが、龍海と宗方は道場で習っただけで試験を受け、下位クラスを三つマスターし、試験に合格してしまった。


「……マジかよ。そんな奴、ムッさんだけだと思ってた」


「うちの道場では三人目じゃよ。しかも、これで女子なんじゃから恐ろしい」


「そっちの半五郎くんは違うの?」


「半次郎じゃ。奴はそれほど才能があるわけでもない。ただ、午前の練習後に陸奥と坂本と一緒にいたから連れて来ただけじゃよ」


「自分、そんな理由で連れて来られたんスか⁉︎」


 驚きの事実で半次郎が大声を上げると、何だか勝手に話を進められてる気がした龍海は立ち上がった。


「ま、待ってくださいカッさん!」


「誰がカッさんじゃ」


「私そんなの嫌ですよ⁉︎こんな男とダンジョンに入るなんて……!」


「ダメじゃ、行け。今のお前は実戦経験が圧倒的に足りない。それを補うには実戦に行くしかないじゃろう?」


「でも……!」


「生きて帰って来れれば、お前の実力は必ず数段跳ね上がる」


「生きて帰って来れないかもしれないって事ですよね⁉︎」


 尚更、行きたくなくなる龍海に、宗方が言った。


「大丈夫だ。俺も行った事ある」


「陸奥さんも……?あ、もしかして半年前に2日か3日くらい顔出さなくなったのって……」


「ああ。これに行ってた」


 その後の宗方は確かに実力は上がっていた。当時、ようやく龍海が宗方に追い付いたと思ったら、すぐにまた差を開かれたのはその時期だったからよく覚えてる。二人の言ってる事は本当なんだろう。

 でも、顔を合わせたばかりで、自分の師匠や先輩にタメ口を聞く失礼な男と2日3日、一緒にいるのは正直嫌だった。

 俯いて悩んでると、海縁が言った。


「とにかく行け。実戦経験がなければ、どちらにせよ上位冒険者にはなれん」


 海縁の言う通り、上位冒険者になるには、実戦においてある程度の実績を残さなければならない。

 だからと言って別に今じゃなくても、とも思ったが、師匠に行けと言われてしまえば、やはり行かざるを得ないと思った。


「……わかりましたよ。行きます」


「よし。そういう事じゃ、イーリス。頼む」


「え、嫌だよ」


「「はっ?」」


 予想外の返しに海縁と龍海の声がハモった。そんな二人の反応をまるで意に返す事なく、イーリスは続けた。


「だって、実戦経験ないって事は素人でしょ?ムッさんの時もそうだったけど、足手まといがいるとそれだけで情報を仕入れるのって大変になるんだよね。そんなのがいられると面倒だもん」


 その、まるで悪気のないような言い方、話してる相手が自分ではなく海縁、本音で言ったと思われる台詞の内容、全てが龍海の癇に障った。


「……カッチーン、と来た」


「あ?」


「誰が素人ですか⁉︎私はちゃんと戦えます!中位クラスにもなってるんです!」


「うん、ありがとー。カッさん、とにかく嫌だよ俺」


「んなっ……⁉︎な、なんで私とはちゃんと会話してくれないんですか⁉︎」


「うん、ちょっとごめんね。大体、俺子供嫌いなんだよね。うるさいし」


「子供⁉︎」


 子供と思われてるのに気付き、うがーっと髪を掻き毟る龍海をまるで無視して、イーリスは海縁と話を進めた。


「とにかく、俺は嫌だよ」


「どうしてもか?」


「どうしてもだよ。絶対無理」


「どんな事があっても?」


「当たり前じゃん。子守しながら情報収集は無理」


 完全に拒否られた海縁を見て、龍海はイラっとしたが、それならそれで自分は行かなくて済むのでグッと堪える事にした。


「カッさん、もう帰りましょう。なんか私、疲れちゃいました」


 そう言って龍海は出口に向かおうとした。その直後、海縁が指を鳴らした。すると宗方が懐から封筒を取り出して、イーリスに見せつけるように中の札束を数えながら言った。


「……じゃあ、この前金はいらないな。みんなで焼肉食って帰るから」


「待ってタンマお願い待ってそれいくら?」


「10万」


「任せろ。たつみんに大量の実戦経験を積ませて、速攻でベテランアタッカーにしてやる」


 驚く程の手の平返しに龍海はドン引きしてため息をついた。



 ×××



 イーリスは鼻歌を歌いながら、出発の順暇を始めた。道場の面々は帰宅し、龍海は一人残って部屋の中で正座して待っていた。

 目の前のいけ好かない男は、何だかよく分からないアイテムをせっせとポーチに詰めている。

 何か話した方が良いかな、と思った龍海はとりあえず何か聞いてみた。


「あのー、イーリスさんはクラス何なんですか?」


「〜♪」


「………」


 前金で10万、成功報酬で20万と聞いて、すごいウキウキしているのか、返事が返ってこなかった。

 龍海は自尊心が高い。道場に入門してからずっと、天才だなんだと周りにもてはやされて来たから、いつの間にかプライドが無自覚に高くなってしまった。

 よって、無視されるのはすごい腹立たしかった。


「イーリスさん!」


「Yeah!Yeah!野望を秘めた魔王と攻防♪討ち取った先には世界の希望♪」


「イーィーリースーさん‼︎何ですかそのクオリティの低いラップは⁉︎」


「Yeah!Yeah!ゴボウで逃亡♪」


「どんな状況ですかそれは⁉︎ていうか聞いて下さい!」


「……なんか、違うか……。ゴボウで……いや違うな……ゴボウな…ゴボウが?ゴボウが逃亡?」


「人が話し掛けてるのにラップの事で真剣に悩まないで下さい!」


「うーるせーなーオメーよー。何?」


「だーかーらー、イーリスさんのクラスって何なんですか?」


「んー、何に見える?」


「……遊郭の遊女ですかあなたは」


「えっ、遊郭行ったことあんの?女の子なのに?」


「はい。師匠達に連れられて何度か。まぁ、私は表で待っていただけですけど」


「何やってんだよあの人……」


 そう友達にツッコミを入れるように呟きながら、情報収集の支度をするイーリスに、まだ前の質問も答えてもらってないのに、龍海は何となく気になったので聞いてみた。


「あの、イーリスさん」


「今度は何」


「師匠とどんな関係なんですか?」


「え、何?カッさんの事好きなの?」


「違います!ただ、歳は離れてるのに随分親しげだったから気になって……ていうか、イーリスさんいくつですか?」


「37」


「ふぁっ⁉︎本当に⁉︎」


「いや?嘘」


「っ!い、一々人をからかわないと会話が出来ないんですか⁉︎」


「16だよ」


「16⁉︎」


「いやなんで驚いてんの」


「いや……37ではないにしても、坂本さんよりは歳上のパターンかな、と思いまして……。普通に歳下でしたね……」


「何言ってんのお前」


「……スミマセン」


 ウエストポーチになんかよく分からない物を詰め込み、腰に拳銃とダガーをしまって、いよいよ準備万端だ。


「でも、そこまで歳離れてて、よく師匠とタメ口で話せますね?まぁ、坂本さんの場合は口癖で敬語を使ってる部分もありますけど。でも、この口癖がなくても、私なら歳上の方にタメ口は使えません」


 皮肉を混ぜて言った。それでも、イーリスは気にした様子なく答えた。


「……まぁ、歳の差あっても別に上下関係あるわけじゃないし。門下生ってわけでもないし」


「そういうものですか?」


「人によるよ。行こう」


「あ、はい」


 イーリスが帽子を被って、靴を履いて玄関に出ると、その後を龍海は続いた。

 玄関から出て、小屋の裏に回るイーリスに龍海は思い出したように聞いた。


「……で、結局師匠とはどんな関係なんですか?」


「知り合ったキッカケは、好みのエロ本の取り合いだったかな」


「……聞かなければ良かった」


 ゲンナリした表情を浮かべる龍海を無視して、小屋の裏から何か乗り物に跨った。

 その乗り物はスクーターの車輪より下の部位を平らにし、後部に立ち席を着けたような外見をしていた。


「……なんですか?それ」


「知らないの?飛行バイク」


「ああ、これが魔法の国イードラの飛行バイク……。初めて見ました」


「そうなん?」


「坂本さんはワノ国から出た事はありませんから」


「や、威張る事じゃないからねそれ」


「でも、これが飛ぶんですよね?……すごいですね。どんな仕組みなんですか?」


「言って理解出来んの?」


「むっ、出来ます!」


「……じゃあ言うけど。これは隣のイードラで借りて来たんだよ。運転席のハンドルの中心の穴に専用の魔石を埋めて、その魔石の魔力が切らすまで運転できるって感じ。元々は軍事魔道具で一人が運転、もう一人が後ろで戦闘員としての乗り物だったけど、あまりに便利だったから、簡易化して商品化したのがこれ」


「……あの、とりあえずマセキって何ですか?」


「うん知ってた。まぁ、魔法の国のトンデモ技術だと思って」


 そう言いながらハンドルの中心に、紫色の石を嵌めた。

 直後、フワッと飛行スクーターは浮き上がった。


「それが魔石ですか?」


「そうだけど早く後ろ乗れよ。これ、魔石抜くまで止まらないから」


「へっ?は、はいっ」


 微妙に進み始めてるスクーターを見て、龍海は慌てて後ろの立ち席に乗り込んだ。


「手摺から手を離さないでね」


「は、はいっ……!」


 直後、イーリスは足元のペダルを踏み込み、スクーターはその場から浮き上がってから走り出した。


「ひゃっ……⁉︎は、速ッ……!馬より全然……!」


「目にゴミ入んないようにね」


 いつの間にかゴーグルを装着したイーリスが呑気な口調で呟いた。

 スクーターは早くもワノ国の門を飛び越え、ワノ国とイードラの国境「ワードラ砂漠」に出た。基本的に行商用に二つの国を繋ぐ一本の道があるが、スクーターにそんなものは関係無い。


「………これが、ワノ国の外……」


 龍海は国外に出た事はない。いつも道場で実力をつけていた。だから、外の世界がかなり新鮮だった。建物も何もなく、ただ自然のみが広がる世界。

 少年のように目を輝かせて辺りを見回す龍海にイーリスが聞いた。


「本当に初めて外に出たんだ」


「えっ⁉︎何か言いました⁉︎」


「や、なんでもない」


「何ですか⁉︎」


「なんでもないってバカ」


「なんでもないから言わないで下さいよ!」


「聞こえてんじゃねーかバーカ」


「バカって言う方がバカです!」


「うるさいバカバカバーカ貧乳」


「きっ、着痩せするタイプなだけです!」


 小学生の口喧嘩の如く、お互いにバカバカと言い合ってる時だった。ギャアギャア、と怪物の鳴き声が聞こえた。龍海は身構え、腰の短刀に手をかけた。


「な、なんの声ですか……?」


「ん、多分デザートカラス。ほらアレ」


 イーリスの指差す先を恐る恐る覗き込む龍海。デッカくて茶色いカラスが飛んで鳴き喚いていた。


「⁉︎ か、怪物⁉︎」


「大丈夫。奴らの好物は動物の骨だから、死骸にしか興味ないから」


「へぇ……さ、流石情報屋さんですね。………んっ?」


「まぁ、たまに餌がなくなって生きてる動物を狙うこともあるけど……」


「い、イーリスさん!餌ないみたいです!みんな超こっち睨んでます!」


「大丈夫大丈夫。唸り声上げてるけど大丈夫」


「いやそれ威嚇されてますよね⁉︎も、もっと低空飛行とか出来ないんですか⁉︎」


「いや、できなくもないけど?」


「じゃあして下さい!」


「なら、文句言わないでよ?」


「へっ?」


 イーリスはスクーターの高度を下げて、砂漠の地面スレスレまで降りて、飛行を続行した。


「ふぅ、これで大丈夫……」


 ホッと龍海が胸を撫で下ろした直後、ボバッと後ろから砂が噴き出し、モロに二人に砂が掛けられた。


「ひゃっ⁉︎も、もう最悪……!」


 髪や体から砂を払いながら後ろを見ると、デッカいクジラっぽいのが大きく口を開けて追って来ていた。


「いっ……イーリスさああああああん!後ろ、後ろおおおおおおお‼︎」


「ああ、それは熱砂クジラだよ。歯応えのあるものなら何でも食べる奴だよ、人間には普通は害は無いけど、多分スクーターが美味そうに見えるんだろ」


「分析してる場合ですか⁉︎逃げて!上!上昇!ゴーアップ!」


「そしたらさっきのカラスが」


「詰んでる⁉︎」


 ああああ!と後ろで頭を抱える龍海を見て、やかましくなったのかイーリスは冷静に聞いた。


「あのさ、俺のポーチ開けてくんない?」


「そんな場合ですか⁉︎」


「いいから早く。中に白い石入ってるから、それ取って」


「はぁ⁉︎そんなもんで何を……!」


「良いから早く」


「ええっ⁉︎………も、もうっ……!」


 仕方なさそうに龍海は鞄の中を漁った。ようやく白い石を発見し、後ろから差し出した。


「はい、これですよね⁉︎」


「どうも」


 石を受け取ると、ポンポンと二回ほど手の上で放った後、自分の真上に投げた。


「っ⁉︎ な、何を……⁉︎クジラは真後ろですよ⁉︎」


 叫びながら龍海は石を目で追った。直後、まずはデザートカラスが石に向かって行った。

 直後、下から熱砂クジラが大口を開けて、カラスごと石を食った。その間にイーリスはペダルを踏み込み、一気に距離を突き放しつつ、上空飛行に戻った。


「ふぅ……あっぶなかったぁ……」


「あの、イーリスさん。何を投げたんですか?」


「ん?岩ドラゴンの頭蓋骨の欠片」


「……はっ?」


「岩ドラゴンって身体の重要な部位を守る骨は体の表面から浮き出てるだけど、その骨は馬鹿にならないほど硬くてさ、雌の取り合いで雄同士の頭をぶつけ合う事も多いんだよ。熱砂クジラはでかい図体して量より質だから、より硬い物を求めるし、デザートカラスも生身の体を剥ぐ手間のある俺たちよりも骨の方を選んだってわけ」


「なっ……なるほど………?」


 分かったのか分かってないのか、イマイチ分からない返事をしてるうちに、ダンジョンの前に到着した。

 ダンジョンに到着し、入り口付近にスクーターとモンスター避けのお香を置くと、イーリスはゴーグルを帽子のツバの上に上げた。


「……さて、行くか」


「あの、それはそうと……熱くないですか?この中」


 暑さとは別の汗を流しながら、龍海はおそるおそるダンジョンの中を指差した。


「そりゃ砂漠にあるダンジョンだし。あ、冷却アイテムあるけど使う?」


「あ、はい。流石、情報屋さんです、準備が良いですね」


「情報屋は関係ないと思うけどね。はいこれ」


 イーリスはポーチから、若干茶色が掛かった水色の塊を手渡した。

 それを親指と人差し指で摘んで、物珍しそうに眺めながら、龍海は聞いた。


「……これなんですか?」


「イエティのウンコ」


「ウンッ……⁉︎最ッッッ低‼︎」


「グホッ⁉︎」


 顔面にウンコを投げつけられた。



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