夜空の星
カトリーヌ邸に戻った斜影は、今日の戦闘を元に今後、戦闘になった場合に使用する銃について考えた。
(スパス12は、一回で3発もBB弾を消費しちまう。少なくともデザートイーグルの1発で敵は倒れていたが、スパス12を使用しては、弾薬の消費が早まるだけだ。)
と、斜影は思った。
「電源コンセントはある。少なくとも電気はある。だったら89式をメインにしよう。」
斜影が言った時、ミーリャが部屋に入ってきた。
「今日は大変だったね。」
「本当の戦闘は初めてだ。俺の世界で、人を殺したこともない俺が、この世界で人殺しに―。こいつだって、人殺しをするための物じゃないのに―。」
斜影の手には89式5.56mm小銃があった。それを見たミーリャはプロポーズでもされたかのような顔で驚いていた。
「それは、大切な人を守るための?」
「うん。」
ミーリャは斜影が涙を零しているのに気付いた。
(日本で、サバゲーは人殺しって言われ、それを否定し証拠を見せても「証拠を見せたり否定したりしている時点で人殺しって認めているのだ」って言われ、彼女は同じサバゲーマーでもマナーも守らない奴に浮気の傾向を見せ、ムキになって浮気相手をアレでボコボコにしたらそれが運の尽き。自棄を起こしてまたサバゲーやろうとしたら、この世界に堕ちてきた挙句、本当に人殺しをするなんて。)
斜影の涙は、89式5.56mm小銃の銃身に落ちた。
ミーリャが斜影の涙を指でなぞるようにして拭く。
「夜空を見上げよう。」
と、ミーリャが言い、庭に出る。そうだ。昨日、この世界に落ちてきたが昨夜は気絶していたため、この世界の夜空を見るのは初めてだった。
この世界の夜空には、不思議なことに星座絵が描かれた状態の星座が見えた。
斜影のいた世界の夜空では考えられない事だ。
「この世界の夜空は、絵が描かれているのか?」
「そう。月の無い夜は、特にはっきり見える。」
「へえ。」
斜影は夜空を見上げて溜め息を吐いた。
この夜空の中に、見覚えのある星座を見つけてしまったからだ。
逆さまになって見えるオリオン座である。そして、その近くに逆さまの大犬座や小犬座を見つけた。
見覚えのない夜空と思ったが、よくよく見てみると自分の知っている星座が見えた。しかし、何かが違う。
巨大な船の星座、アルゴ座と南十字星が異様に高い位置に見えてはっきりした。これは、南半球の夜空であると。
「綺麗な夜空だな。」
と、斜影は言いながら、夜空を見上げここは異世界であると実感した。もし同じ地球上にある異世界であるのなら、ここは南半球の国であろう。最も、本来、斜影が居る世界の宇宙をコピーした別の宇宙だったら話は違うかもしれないが。
斜影はあくびをした。
「あっ、ゴメン。眠いのに付き合ってもらっちゃって。」
ミーリャが慌てた。
「明日も早いから、もう寝ましょ。」
と、ミーリャは言った。斜影の明日の予定は解らない。とりあえず6時30分に起きて朝食の用意でもするのだろうと斜影は思っていた。
与えられた部屋の前まで、ミーリャが付いてきて、「おやすみ」と言った。
斜影もそれに応えて部屋に入ると、部屋にマリが暗い顔をしてぼんやりと立っていたため、驚いて89式5.56mm小銃を構えてしまった。
「その武器は、大切な人を守るための物。」
と、マリが言った。