サバゲーマー
憲兵隊の本部に斜影は連れて行かれた。
ロンドンのビックベンのような建物だが、その隣には東京スカイツリーのような巨大な塔がある。
(カオスって言葉が似合うな。)
と、斜影は思った。
斜影は内閣の閣議前の控え室のような所で、タンクと話していた。
「空想科学小説は君の国にあるかね?」
タンクが言った。
「はい。代表的なものが、私の時代の自衛隊―。要するにこの国で言うと貴方方憲兵に当たる物が、戦乱の時代に飛ばされるという物です。」
「異世界召喚されると言う話はあるか?」
「はい。状況は今の私とほとんど同じです。」
使用人の女性が紅茶を持ってきた。
斜影は一口飲んでみたが、それは現実世界の紅茶とほぼ同じ味だった。
「最も気になるのが、君の武器だ。一撃で敵を倒した。」
「エアーソフトガンと呼ばれる玩具です。玩具ですので、私の世界ではまず、撃たれても死なないです。しかし、この世界ではどういう理由か、倒せてしまったのです。」
「玩具?君は戦士や憲兵ではないのか?」
タンクは驚いた。
「はい。私はサバゲーマーと呼ばれる者です。簡単に言うと、エアーソフトガンで戦うフリをする者ですね。」
「戦うフリだと?」
タンクは笑った。
「フリであんな大立ち回りとはな。」
「私自身、信じられません。昨日の今日でこんな―。」
「面白い奴だ。気に入った。そろそろ時間だな。」
と、タンクが言った時、マリが迎えに来ていた。
「ミーリャ様の護衛、頼むよ。異世界サバゲーマーさん。」
「もしよろしければ、私に剣術を教えてください。この世界の戦法は、剣術と思われますが、私は剣術については素人です。」
斜影は言いながら、拾った敵の短剣を机の上に置いた。
「何に使うのだ?」
「ミーリャ様の護衛のため、私の武器に装着して戦います。」
「分かった。また後日、カトリーヌ邸にお伺いさせていただこう。」
タンクは言い、斜影はマリの馬車に乗って帰路についた。
「厄介なことになった。」
「何がですか?」
短い髪に眼鏡をかけたマリが振り返って聞く。
「この世界は、争いが絶えないのか?」
「はい。ことに、コロセアムとの関係に至っては紛争が絶えません。今日、ミーリャ様が襲われたのが良い例です。」
「俺のエアガンは、弾が無くなればただのカカシ。少なくともミーリャを守るって任においては、この世界の戦術を身につけないと―。」
夕陽の中の一本道を、馬車は進んだ。
(世界は違っても、夕陽は同じか。)
斜影は思った。
だがそれは、斜影の現代世界に対する皮肉も含まれていた。
それに、マリは気が付いた。
「立ち入った事を訊きますが、元の世界に帰りたいですか?」
斜影はこれに、答えられなかった。
「なぜ、魔法使いでも超能力者でもない貴方が、この世界に居るのか、この世界に堕ちてきたのか、私には分かりません。」
「俺も分らない。」
と、斜影が言った時、一番星が見えた。
「あの星はなんだ?」
斜影は聞く。
「御存知ないのですか?あれは金星です。」
「そうか―。」
斜影はこれを聞いて、もう帰る方法は無いと思った。
ここは、別世界であるが、ジパングという国があるのは、地球の可能性が濃厚になったのだ。
例え別の惑星系にある地球と同じ惑星だったとしても、まずどうやって別の惑星にやって来たのかさえ解らず、それ以前に地球と太陽系の天体を往復して帰ってきた宇宙船は、現実の地球にも「アポロ宇宙船」や小惑星探査機、彗星探査機以外に存在しない。地球から最も遠い宇宙へ行ったボイジャー宇宙船でさえ、太陽系以外の恒星に到達してはいない。
「また変なことを聞きますが、貴方は帰ったところで、居場所はありますか?」
「―。」
斜影は黙り込んだ。
(そうだな。帰ったところで、居場所なんか無いだろう。)
「その様子から見て、帰る場所はなさそうですね。」
「何を考えているんだ。マリ。」
「いいえ。私はミーリャ様にお仕えするだけです。」