雨の音
そのゲームの時、雨が降っていた。
通り雨のようだった。
電動ガンに雨は大敵だが、このフィールドは森林フィールド。フィールドに入ってしまえば、雨はほとんど気にならない。
「はあ。はあ。はあ‥…」
息を切らしながら、ソ連の迷彩服を着た斜影は一人、戦っていた。
ハンドガンのデザートイーグル50AEの弾が切れ、最後のマガジンを装填。
一つ前のゲーム中、身体に21Kgの巨体を付けていたため体力を奪われ機動力が失われていた。。
さっき、敵チームに居る元カノの浮気相手を滅多打ちにしたM134は切り離し、セーフティーエリアのテントの中で沈黙している。今、斜影の手元にはハンドガンのデザートイーグルしかない。
「はあ。はあ。はあ―。」
「バタタタタタタタ。」と、電動ガンの音が響く。
味方チームのAK‐74の銃声だ。
「ガウン!」斜影のデザートイーグル特有の銃声が轟く。
「もう、別れましょう。あんたはただの、人殺しよ。」
「ガウン!」斜影の脳裏で、さっき元カノに言われた言葉が過ぎる。
「ヒットーッ!」
AK‐74を使っている味方が斜影の少し前でやられた。
斜影の後方に親子で来ていたらしい、チビッ子がバカみたいにM93Rを持って突撃する。が、物陰にいた斜影の元カノに浮気相手から借りたMGL140グレネードランチャーを連打された。
「キャーッなにこれ楽しいーーーーっ!」
元カノが歓声を上げ、撃たれた子供は泣き出している。
「なんて酷い事を。いや、酷過ぎる!どっちが人殺しだ!?」
躊躇いなく、斜影はデザートイーグルを発砲。元カノの胸に命中した。だが、
「レッドチーム。残りは一人!」
レッドチーム。斜影のいる赤いマーカーを付けたチームは、斜影がやられたら負ける。
「後はミニガン野郎だけだ!」
スナイパーが放った弾が斜影の直ぐ近くを飛び抜ける。斜影の居場所はすでにバレている。
「クッソ!」
だが、斜影にもうその場から駆け出す体力は無い。M134は重過ぎた。最強云え、その巨体の重量は他のエアガンの比にならず、これを身体につけて走り回るのは不可能。斜影はそれでも走り回って体力が無くなってしまった。
スナイパーの狙撃から逃れようと茂みに飛び込み、雨でぬかるんだ地面に足を取られた。
「わっ!」
斜影は落とし穴のような塹壕に落ちて倒れる。
敵が、砦の中に見えた。
「畜生。チクショーッ!」
デザートイーグルを闇雲に撃つが、無駄である。弾が切れた。
雨が、木々の合間から滴り落ち、塹壕にチョロチョロと小さな雨水の流れとなって流れ込んでくる。
「撃てーっ!」
AK‐47。M‐4。G‐36。アサルトライフルのフルオートの一斉攻撃は、塹壕に落ちて倒れた斜影を確実に仕留めるための猛弾幕を形成。そこに、MP5やMP7といったSMGも加わり、もう斜影は逃げられない。倒れた斜影の顔に、大量のBB弾が飛んでくる。何発ものBB弾が斜影に被弾。
「ヒット―。」
と、斜影は力無く言いながら手を上に伸ばしてアピールすると、射撃が止む。ゲーム終了だ。
斜影は足を引きずるようにフィールドを出て、セーフティーエリアのテントに倒れ込む。
雨はその時になって止んだ。木々の枝から落ちた雫がテントに当たる。
雲の切れ間から太陽が顔を出し、東の空に虹が出る。
元カノは浮気相手とイチャイチャし、フィールドのスタッフに頼んでラブラブのツーショットを撮ってもらっている。
(戦う理由は何だ。俺は、何の為に戦っているのだ。)
雨の上がったセーフティーエリアで浮気相手とイチャイチャする元カノと、未だ木々の枝から雫が落ちてくる場所で倒れ込む斜影の温度差は激しい。だが、輝いていて、幸せそうなのは明らかに元カノの方だった。
そして、その後正式に別れを切り出された。
別れを切り出された時、斜影は溜め息をついた。
(戦う理由が無い。もう、サバゲーで闇雲に戦うしかないのか。)
正式に別れを切り出されたその日、斜影は都内のサバゲーショップに行く。繁華街のサバゲーショップは大通りから外れた裏道に多いが、そこでも、学生カップルがいちゃついている。そして、その日も都内の空は鉛色で、雨が時折落ちてきていた。




