渇き
斜影はまたも、軍港に行く。
ジパング帝国海軍初の超弩級戦艦であるファーストスター級が4隻揃って停泊している。
海鳥が空を飛び回る。
この世界で愛し合っているのであろう二人組が、海を眺める。
(これが平和ってもんか。クソ。なんでこんなにイライラして、なんで渇くんだ。)
と、斜影は溜め息をつく。
「おうおうおうおう。」
と、5人組の男達が詰め寄ってきた。
騒ぎの知らせは、すぐにミーリャの元にまで届き、ミーリャは斜影の所へ飛んできた。
斜影は顔から血を流していたが、その他の5人の男は全員倒れていた。
政府に関わる人間であり、更に絡まれたのを振り払うためやむ無く行動した斜影だったが、憲兵隊本部で憲兵隊から取り調べを受けることになった。
取り調べを担当したのは、ビスマルクだった。
その様子を、ミーリャは近くで見守る。
「先に手を出したのは、チンピラ5人だったのだな。」
「はい。私は無視して、軍港の中に行こうとしたのですが―」
「足を蹴られて転倒。更に顔を踏まれて出血。それで―。」
「やむ無く、持っていたこいつで応戦しました。」
斜影はデザートイーグルを机に置いた。
「もう撃てなくなったのか?」
「はい。この銃はダメです。」
斜影のデザートイーグルは、バレルが長いタイプだが、そのバレルを残ったチンピラ一人に折られて使用不能になってしまったのだ。
「なぜ喧嘩になるようなことを―。」
「解りません。海を見て、軍艦を見ていただけで、なぜ絡まれたのか解りません。ただ、こういうことは元の世界でもよくありました。話す間もなく一方的にいきなり絡まれる。これにはもう慣れてます。」
と、斜影は溜め息まじりに言った。
「あのチンピラだが、やることもない奴の集まりで、一人でいる人を見つけてはボコボコにしていたらしい。まあ、斜影が4人の腕や足に穴空けたおかげで再起不能だろうな。」
「やりすぎたと言う事ですか。」
斜影は、また元の世界でやった事をこの世界でやったのかと思ったが、問題はそれではなかった。
「奴等は逮捕されて、重罪になる。穴空けたか、空けてないかは関係無い。問題は別にある。」
ビスマルクが冷たく言う。
「何を思い悩んでいるのだ君は。」
斜影は息が詰まった。
なんと説明すればいいか解らないのだ。
(まさか、3人の綺麗な娘達に迫られてどうすればいいのか分らない上、何かが満たさず心が渇いて行くって言うわけにもいかないし―。)
「ミーリャ達とは上手くやっているか?」
ビスマルクが訊いたが何も答えられなかった。
「なんだ?上手くやっていないのか?この前の式典のときは仲良くしているように見えたのだが。それに、このところ君は軍港に来ては軍艦を眺めていたそうだな。ミーリャ達との生活に飽きたのか?」
斜影は首を振った。
「上手くやっているつもりですし、飽きてもいません。」
「じゃあ、なんだってんだ?」
「渇くのです。心が渇いてしまうのです。何をしても満たされない。」
「詳しいことは解らんが、君は島流しの島で、元の世界へ帰る事を自らためらい、ここに戻って来たのだよな。」
「はい。」
「なぜ、戻らなかったのだ。」
「この世界に来てから、俺はあの世界が嫌になりました。人間との関係を軽く考え、人間を簡単に裏切る。その結果が、俺がこの世界に来る原因となった行為に繋がりました。もし、元の世界に帰っても、居場所は無ありません。でも、この世界には、ミーリャと共に生きていける可能性があります。その可能性を信じて、この世界でミーリャ達を守って生きていきたいと思ったからです。」
「その結果がこのザマか?」
「―。」
斜影は何も言えなかった。
「中途半端だ。覚悟が足りん。そんなんで、よくミーリャ様のボディーガード及び婚約者が務まるな。」
ビスマルクは笑いもしないで言った。




