港
斜影が逃げ込んだのは、国会議事堂から見える軍港だ。
目の前に停泊しているのは、アイリス合衆国のサウスダコタ級戦艦とジェーニの救出作戦に参加した大型巡洋戦艦「アラスカ」だ。
軍港の隣の貿易港に入る大型貨物船が航行しているのが見える。
(異世界でドンパチの次は、異世界ハーレムですかい。ただ、この世界で浮気や婚約破棄は―。)
「死刑。もしくは重罪に処される。」
と言ったのはマリだった。
「坂田二尉。いつ来たのだ?」
「着いてきた。何処に行くのかと思えばここに来て海を見て。」
「いいじゃねえか。ここで軍艦見たって。」
マリは溜め息をついた。
「どうしてこんな奴に心を奪われたんだか。」
「誰が。ミーリャか?」
「違う。」
「ジェーニか、まさかお前って事は―。」
「全員正解。」
斜影は気分が悪い。
「ざけんな。俺はミーリャと婚約したことになってんじゃ―。」
「ジパング帝国憲法の婚約に関する項目を見た。確かに憲法で浮気や婚約破棄は死刑か重罪に問われるとされている。ただし例外に当たる場合はこの限りでない。」
「なんだよそれ。」
都合が良過ぎると斜影は舌打ちしたが、マリは構わず言い続けた。
「例外に当たる場合の解釈基準にはこう書かれている。「この世界を知らない人間、神に導かれし他世界の人間がこの世界にやって来た場合」ってね。」
「都合が良い解釈だよ。」
「カトリーヌ様に確認したら、斜影は例外に当たる場合に該当する。つまり、斜影はミーリャとジェーニとそして私とも重複に結ばれても良いって事。」
「知らねえよ。つか、俺は―。」
「幸せの定義なんて、分らないよ。」
「だけど、異世界の人間だから特別ってそんな事無理だろ。」
軍港から汽笛が聞こえた。
ジパング帝国海軍の警備艦が出航するところだった。
(ジェーニを助けに行った時のあの作戦は、やりがいがあったな。)
と、斜影は思う。
「ハーレムは嫌なの?」
マリが言う。
「違う。ぬるま湯に浸かっているみたいで気分が乗らない。いや、向こうの世界ではこんなこと無かったのに、この世界ではハーレムなんてな。」
斜影はため息をついた。
異世界で本当の戦闘を目の当たりにしたと思えば、今度は異世界でハーレムである。
「とにかく、少し、一人にさせてくれ。」
と、斜影は言い、どこかで一人になれる場所はと思って軍港の中に入ることにした。




