ブラックホールの女神
衰弱したジェーニは、少しずつだが戦闘糧食を食べて体力を取り戻していく。
「この穴は、神の棲む祠の穴。光の柱を形成し、死者の霊をあの世へと送り、この世界を見守る女神フェニコスが住んでいる。」
と、ジェーニは言う。
「この穴に幽閉されて居た間、何度もフェニコス様に会い、食べ物を与えられ、生きる力を与えてもらっていた。」
その時、穴の奥にある別の扉が開いた。
扉が開くと、強烈な光が入ってきて穴の中が明るく照らされ、扉の向こうから翼の生えた女が現れた。
斜影は思わず、89式5.56mm小銃を構える。
「貴方達を待っておりました。」
と、女は言った。敵ではないようだ。斜影は、小銃を降す。
「あの方が、女神フェニコス様です。」
と、ジェーニが言い、ミーリャとマリが頭を下げる。
斜影も慌てて頭を下げた。
「鞍馬斜影。貴方は私に導かれてこの世界に来た人間。坂田萬里。貴方はジェーニに導かれた人間。」
フェニコスが斜影とマリに言う。
「坂田萬里。貴方は、ミーリャのメイドとしてこの世界に導かれました。幽閉の岩戸に幽閉されたジェーニがミーリャの身を案じ、泣き叫びました。泣き叫ぶうち、ジェーニの魂が私の管理するこの世とあの世の道を逆走して、鞍馬射影と坂田萬里の世界へ行きました。それを見つけたのが、坂田萬里です。坂田萬里は2人でジェーニの魂を見つけましたが、1人は男であったため、坂田萬里のみこの世界に導き、もう1人はこの世に導くことは出来なかったのです。」
斜影は言いたいことがあった。
「フェニコス様。なぜ、坂田二尉と共に飛んでいた人を殺したのです。」
「鞍馬斜影。ジェーニは自分の代わりを求めて、坂田萬里を導いたのです。そこに男が1人入ってしまう事は出来ません。その代わり、その方には来世において素晴らしい地位を与える事を約束しました。」
腑に落ちない点もあるが言い争ってもしょうがない。相手は女神だ。
「しかし、ミーリャは国のために、何度も何度も独裁者と戦った。ジェーニの分まで戦っていた。しかし、徐々にミーリャも疲弊し心が折れそうになっていった。私は再び、この世とあの世の道を逆走して世界を見ていたところ、鞍馬射影が交際相手の浮気相手を嬲る様子を見ました。理由はどうであれ見過ごすことはできません。その報いとして、ミーリャとともにこの世界で戦えと言う思いから、貴方をこの世界に導きました。」
「俺はあの行為に間違いはないと思っている。サバゲーは事故と隣り合わせだ。確かに、やりすぎたかもしれんが、女の子にカッコつけたいがために、他人に迷惑をかけたり、事故になったりしてもいいという理由には―」
斜影が反論するが、ミーリャが止めた。
「その様子では、例え元の世界に戻ってもまた孤立して、自殺するでしょう。貴方は今、元の世界では死んだことになっています。」
「―。」
斜影は絶句した。マリが言っていた通りだったからだ。
「鞍馬射影。坂田萬里。二人は元の世界では死んだことになっています。ですが、この場所にジェーニを救いに来た。ジェーニは二人に礼をしたいと言っております。」
「二人が望むなら、フェニコス様が元の世界への道を開きます。」
ジェーニが言った。
「私は帰りません。ミーリャ様。そして、ジェーニ様と共に、この世界で生きていきたいです。」
マリは即答した。
「俺は―。」
斜影は少し考えた。
「帰ると言うの?」
マリが言う。
「俺はあの世界が大嫌いだ。人間との関係を軽く考え、人間を簡単に裏切る。その結果が、俺がこの世界に来る原因となった行為に繋がった。もし、元の世界に帰っても、居場所は無い。でも、この世界には、ミーリャと共に生きていける可能性がある。だから、俺も、帰らない。その代わりに、この世界でミーリャ達を守って生きていきたい。」
ミーリャが意外な顔をした。
「それでいいの?」
「ああ。俺はこの世界でやり直したい。元の世界に帰るのではなく、この世界でやり直す。そのために、ミーリャ、いや、ミーリャ達を守り抜く。よって、今の俺が願うのは俺のエアガンの部品と弾を供給して貰うことだ。」
と、斜影は言った。
「では、鞍馬射影。貴方には複製の力を与える。複製させたい物に触れた上で地面に触れることで、地面から複製された物が出てくる魔法です。」
(メグの魔法だ。)
と、斜影はフェニコスの説明を聞いて思った。
「鞍馬射影。目をつぶって。」
フェニコスが魔法をかける。斜影に光の柱がぶつかる。
「これで、貴方の願いは叶いました。」
と、フェニコスは言い、姿を消した。
「さあ、帰りましょう。お姉様。」
と、ミーリャが言い、ジェーニは肯いた。
穴を出てハーフトラックに乗る時、斜影は振り返る。
(さようなら。故郷への道。さようなら。カントリー・ロード。もう二度と、故郷には帰らない。ミーリャと、そしてこの世界の皆と共に新しい生活をしていく。だから、さようなら。故郷への道。)
心の中で斜影は言い、ハーフトラックに乗り込んだ。
斜影がエンジンをかけ、ハンドルを握る。
バックミラーに写るブラックホールの降着円盤がどんどん遠く離れて行き、やがて見えなくなった。




