白銀の世界
借りた車は、米軍のM3ハーフトラックのような車だった。
しかし、トランスミッションはMTではなくATと言うのだから驚きだ。
「ギア一速しかないんじゃねえのか?」
と、斜影は言いながら運転するが、やはりAT車のようで、ギアが自動で変わった。
兵員が乗る部分に、ドラム缶に入れた往復分の燃料と、野営に必要な道具と簡易的な観測機器を積んでいる。
それにしても、何処までも続く白銀の世界。車の後部はキャタピラーだから良いが、ノーマルタイヤの車だったら滑ってロクに運転できないだろう。
(帰りはキャタピラーの跡を辿れればいいんだが。)
と、斜影は思う。
アクセルを思いっきり踏むと、思った以上のスピードが出る。
時速は60キロにまで達した。
性能的には75キロまで出せるようだが、用心のため60キロで抑える。
「何処までも空気が澄んでいるな。」
と、斜影は言う。
2時間走った所で、マリが止まれと言った。
何かと思うと、そこに何かが落ちていた。
それは、斜影の世界にある物だった。
(鉛筆。雑誌。ピンバッチ。これは電車のドア?)
「ジェーニ様の姿が私達の世界に見えた時、付近にあった物が無作為にこの世界に堕ちてきたって事かな。」
「かもしれん。」
斜影は言う。
斜影は空を見上げた。何かが落ちてきたからだ。
落ちた物を見ると、それはこの世界にはないヘッドホンだった。
更に奥地へ行くと、落し物が多くなる。斜影が再び車を止めて回収した物は、1985年6月23日のインド航空182便の航空券だった。更に近くには、同じ年の8月12日の日本航空123便の航空券と航空貨物。同じく1985年11月23日のエジプト航空648便の航空券と荷物が落ちていた。
「これ、全部航空機事故の航空券だ。」
と、斜影が言った。
(なるほど分かってきたぞ。この世界は、俺の生きていた世界と死後の世界の狭間にある世界で、この場所には、俺の世界で死んだ人が死後の世界に持っていけない、または落としていった物が散乱しているってことか。)
斜影はブラックホールの想像図を思い浮かべる。
(この先にあるとされる大瀑布をブラックホールと仮定するとだ、ブラックホールに吸い込まれる物質と言うのが、俺の世界で死んだ人。ブラックホールは全てを吸い込むわけではなく、吸い込まれる物質の一部が宇宙ジェットとなって弾き飛ばされる。この弾き飛ばされた物ってのが、ここに散乱している物ってことか。)
斜影はこう仮定したが、そうなるとまたおかしい点が出てきた。
それは、斜影の世界にジェーニの姿や声がどうやって出現したのかと言う事だ。
「考えていても解らないわ。行くよ。」
と、マリが言い、今度はマリが運転して奥地へ向かった。
まだ全行程の半分も来ていないのだ。
何処までも広がる白銀の平原に、放置される斜影の世界の物。それはまるで南極大陸に落ちた隕石のようだった。
巨大な雪山が出現したと思ったら、それは戦車だった。第二次世界大戦のドイツ軍のティーガー2が砲塔と車体が分裂した状態で放置されている。この平原に落ちても、何も活躍できないままに。
マリが、「カントリー・ロード」を歌い始めた。
(坂田二尉も、本当は故郷に帰りたいのか。)
と、斜影は思ったが、ミーリャは何の歌か分らないため、斜影が何の歌が説明した。
「本当は、マリも元の世界に帰りたいのかもしれない。」
と、斜影が言った。
「斜影は帰りたい?」
「分らない。ここに落ちている物から見て、やっぱり俺は元の世界に帰ってもそこでは死んだことになっているだろう。だから、帰っても居場所はない。」
「どうして、二人はこの世界に生きたまま堕ちてきたのか分らない。マリは昔からメイドとして、私に仕えていたのに、斜影が現れてからマリは斜影の世界の人だったって感じるようになった。」
「ただ一つだけ、俺がこの世界に来た理由としては、この世界でミーリャとマリと共にやり直せと言う事、そして、ミーリャを守り抜くためではないかって思っている。」
と、斜影は言った。
ミーリャは照れたような、火照った顔をしていた。




