出撃
マリが、斜影の自転車を押して来た。
マリは自転車に積んであったデザートイーグルを差し出した。
「何故戦わないのです。ミーリャ様を守る事が、貴方の勤めでしょう。」
斜影はマリの方を向いた。
「例え合法であっても、人殺しは嫌だ。」
その顔は笑っていた。
マリはデザートイーグルで斜影の頭を撃つ。今度は弾も出たが、斜影が死ぬことはなかった。
「私は、ミーリャ様に仕える者として、必要とあれば殺しもします。この世界は、貴方の世界とは違い、生きるか死ぬかの世界です。」
マリは馬車に斜影のスパス12とBB弾の入ったローダーとシェルを放り込み、斜影も無理矢理放り込む。
「行きますよ。」
マリは馬車を全速力で走らせる。
「冗談じゃない。いきなり武力衝突なんて。俺の銃は大切な人を守るための―。」
「あれが、本当に大切な人を守る戦いですか?」
マリは冷たく言った。
「昨晩の貴方の夢を見させてもらいました。貴方は貴方自身に殺されてました。貴方を殺した貴方は、貴方の裏の顔ですね。」
「―。」
斜影は何も言えなかった。
そうだ。あの夢で、斜影を殺した斜影は、斜影の彼女とその浮気相手をギタギタにした時の斜影そのものだったのだ。
「酷い殺し方です。助けを呼んでいたのに、それに追い討ちをかけ、身体もバラバラに―。」
「何故、そんなことをしたのか、理由を聞きたいか?」
「戦うと、裏の顔になって、人殺しを楽しむから―」
「人を殺したいって思ったことは一度も無い!」
斜影は思わず怒鳴った。
「浮気や婚約破棄の絶えない世界が俺の世界だって言っただろ?俺は、それをされたのさ。だから見せしめに、浮気相手と浮気した、付き合っていた奴に対してやったんだ。」
「許される事ではありません。」
「だろ。浮気はこの世界では―。」
「貴方の事を言ったのです!」
今度はマリが怒鳴り返した。
「人を殺せないサバゲーマーだからといって、あんな物を何発も撃ち込むなんて許せません!」
「それでも俺は、浮気相手を許せない。あいつは―。」
斜影は、浮気相手がサバゲーで何をしたのか、なぜ、射影は浮気相手を嬲り殺しにしたのかを話した。
「それで、周囲の人はどう見たのです?貴方を英雄扱いしたのですか?」
「―。」
斜影は黙った。
あの時、周囲から挙がったのは「やりすぎだ」と言う声が多かった。
「これに関連しますが、貴方を殺した貴方が持っていたのは―。」
「ああ。禁断の銃だ。あれを初めて使ったのが、この時だった。周囲を圧倒する姿に、周囲の注目を集めたが、皆、裏切って、俺は一人孤立。そして、アレをやって。敵も味方も皆殺し。そして、付き合っていた奴に裏切られ、行き着いたのが、ここだ。」
「世界を壊しかねない力。それは、嘘ではないですね。少なくとも、貴方の周囲の人間関係を跡形も無く破壊した上、貴方もこの世界に落ちてきた。」
「自業自得かもって思うが、少なくとも俺は、あれは正当行為だったと思う。自分から俺に言い寄って来て浮気して、その浮気相手が卑怯者と来れば余計にね。」
「矛盾していますね。人を殺せない。人殺しは嫌だと言いながら、それに近いことをやっておいて平気な顔をしている。」
斜影は放り込まれた体制から、馬車の座席に座り直した。
「痛てて。まともに乗せるって事を知らねえのかよ。」
「斜影が抵抗するからよ。場合によっては、蜘蛛の糸で縛り上げるわよ?」
「蜘蛛の糸?」
マリの髪の中から、黒い蜘蛛が一匹出てきた。
「私の守護神。危険を察知すると、糸を出して危険の対象となる物を妨害する。それが人や動物なら糸で縛るだけだけど、魔獣なら捕食の対象になるわ。」
マリが笑った。
「斜影にも居るはずよ。守護神が。」
と、マリが言った時、マリの肩に移動した黒い蜘蛛が手招きをするような仕草をした。すると、斜影の肩にも蜘蛛が現れた。
「あら。ハエトリグモね。危険を察知すると、飛びかかってそれを止める。特にピンチの時に、助けてくれるわ。」
と、マリが言った時、前方にサクラダ・ファミリアのような建物が見えてきた。
「あれが、ジパング帝国国会議事堂よ。」




