始まり
溜め息をつく。
鞍馬斜影は今、付き合っていた女に振られたのだ。それも、自分の趣味が原因で。
鞍馬は生粋のサバゲーマーだ。
サバイバルゲームとは、エアガンとBB弾を使った銃器を用いた戦闘を模す日本発祥の遊びだ。
しかし、銃器を用いる物という事から、サバゲーをするいわゆるサバゲーマーは周囲から白い目で見られることも多い。
鞍馬もそうだ。
今、振った女もサバゲーマーという理由で彼を振ったのだ。
そればかりか、周囲の連中との趣味も合わない。
大学帰りに、都内のサバゲーショップに行くが、繁華街のサバゲーショップは大通りから外れた裏道に多い。そしてそこでも、学生カップルがいちゃついている。
また、溜め息をつく。
気分が晴れない。
(明後日、サバゲー行こ。)
と、鞍馬は思いついた。
2日後、鞍馬はサバゲー用品をリアカーやリュックに入れ、リアカーを自転車で牽引して朝靄の中、地元のサバゲーフィールドに向かう。
その途中でも、デート中のカップルに出会す。
目の毒だ。
川沿いの神社を通過する時、彼は自転車を止めた。
神社にお参りをしてから行く。これは彼のサバゲーマーとしての流儀の一つである。
神社にお参りをしてその日の安全を祈るのだ。
鳥居を潜り、古墳の上に作られた本殿に上り、二礼二拍手一礼のお参りをしていた時だった。
「ここへ来て。」
と、斜影の耳に女の声が聞こえた。
振り返ると、黒髪で童顔だが絶世の美人とも言えるような美貌の女の子が鳥居の下に立っていたが、瞬きをすると消えてしまった。
(なんだ?欲求不満で遂に幻覚を見ちまったのか?)
と、斜影は思った。
再び自転車に跨る。
その時、突風が吹いた。
彼の自転車は煽られて、急な下り坂を進み始めた。
(ヤバイ。)
自転車のブレーキを目いっぱいかける。
こんな時のために、自転車は各所点検を怠らず今日の点検でもブレーキに異常はなかった
だが、なぜかブレーキが効かない。
「畜生!」
自転車はガードレールを突き破って崖から湿地に落ちた。
だが鞍馬に、落ちたという衝撃が無い。
目の前が真っ暗になっただけだ。
(まさか、死ぬとはな。)