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モブなので、関わらないで下さい  作者: 雨月 涙
幼少期編
4/7

3

暖かい光が窓から射し込む部屋。

私は『ソイツ』と(たたか)っていた。


「……あの、大丈夫ですか?」

「問題ない……です」

「そうですか」

明らかに問題大有りの私に、エル・リウゴウ……リウゴウ先生は納得してくれる。


「で?昨夜は何時に寝たんですか?」

いや。してなかった。

「いつもと同じ時間ですよ」

「ではなぜ先程から舟を()いでいるのです?」


この世界が『君あり』と同じなのか調べてました、なんて言えるわけがない。


リウゴウ先生の『微笑んで無言の威圧』のおかげ

で、敵である睡魔に見事勝利を収めたものの、私の前には新たな敵、エル・リウゴウが立ちはだかっていた。



        *



結論から言えば、この世界はほぼ(・ ・)『君あり』の世界で間違いない。


『ほぼ』というのは、どことなく設定とズレている気がするからである。


リウゴウ先生が幼い頃、家庭教師をしていたなんて聞いたことはなく、 (ライラ)という存在も出て来なかった。

学園入学前の十四歳で家庭教師を務めていた、と公式ブックに載っていても可笑しくない情報はしかし、前世の私が目にしたことはない。



『君あり』を土台とした世界。



今後攻略対象やヒロインと接触することもあるだろう。が、仮に魔力持ちで学園に入学出来たとしても、モブとして彼らの絡みを見ていようと思う。


「というか間近でリアル乙女ゲー見れるなんて、何それ俺得っ!」

今の私はだらしなく頬が緩んでいるだろう。(ちな)みに、人がいないことは確認済みだ。


「それにしても……昨日のテストは失敗だったなぁ……」

前世(向こう)の七歳児は現世(ここ)の七歳児より頭が良いみたいで、「同年代の貴族と比べても、(まさ)るとも劣りませんよ」ってリウゴウ先生にニッコリ笑顔向けられたときは、冷や汗が止まらなかった。


ひょっとしてリウゴウ先生、もう彼女に会ってる?だから『目が笑ってない笑顔』なんて芸当出来るのかな……いや。それはアレンも出来るか。


彼女……ルシサス・ランジアは、エル・リウゴウに女嫌いのトラウマを植え付けた本人であり、女好きにした原因でもある。

エル・リウゴウと同学年の彼女は彼に恋心を抱いていた。そしてエル・リウゴウより権力があることを利用して婚約者になり、束縛するという……まぁ、言わずもがなエル・リウゴウルートの悪役令嬢(ライバル)だ。


『君あり』のエル・リウゴウの性格は、彼女によって形成されたと言っても過言ではない。


学園入学前だから、そうそう彼女に逢うことはないと思うけどね……たぶん。



        *



「り、リウゴウ先生……?」

「面目ないです……」

心底申し訳なさそうなリウゴウ先生の隣には、ぷくっと頬を膨らませた女の子。


サラサラの水色の髪、きゅっと吊り上がった青緑の瞳ははっきり言って、キツい印象が強い。

前髪ぱっつんだからなのか、和風美人を思わせる彼女は、その表情を変えることなく立ち上がり礼をした。

「初めまして。ルシサス・ランジアですわ」

「……ライラ・ティアードです」


なんで彼女がここにいるの!?


リウゴウ先生に視線を向けると通じたのか、

「どうやら、侯爵夫人に手紙を出して許可をもらっているようで……」


客間(ここ)に呼ばれたのは、そういうわけか。

納得した私に、ルシサスが口を開く。


「ライラ様は、エルの婚約者が(わたくし)なのをご存知で?」

物言いは柔らかいが、言葉の節々に刺を感じる。


うわぁ。敵認定されてるよ……。


「……いいえ。リウゴウ先生に婚約者がいらっしゃることは知っていましたが、ルシサス様がそうであることは知りませんでしたわ」


観察でもするかのように私を見るルシサスに答えると、くすりと笑われた。

「つい最近まであなたは平民だったもの。当たり前よね」

どこか演技めいた口調の彼女に、「ルーシー!!」と声を荒げるリウゴウ先生。


あれ?リウゴウ先生、ルシサスをルーシー(愛称)で呼んでる。ゲームではルシサス呼びだったのに。


「……ルシサス様の(おっしゃ)る通りです。ですが、引き取って下さった両親へ恩返しをする為にも、ティアード侯爵令嬢に相応しい人間になるつもりです」

ニッコリと口角が上がる。そんな私を一瞥するルシサスの口角も上がっていて__



「合格よ!!」



客間に響いた彼女の声に、私とリウゴウ先生は呆けるしかなかった。



        *



「ライラ様、脅かしてごめんなさいね」


眉を下げ、苦笑するルシサスは、先ほどまで私を敵対視していた彼女とはまるで別人のよう。


「……なんでこんなこと」

「ふふっ。エルの将来を任せられるか試したの」


……どうしよう。話についていけない。


仲良さげな二人の空気を邪魔するわけにもいかず、冷めた紅茶で喉を潤していると、ふとルシサスが口を開いた。


「私達の婚約は、正式ではないの」

お互いに面倒な縁談を回避する為の防波堤よ、と何かを思い出すように目を細めるルシサス。


「合格、というのは?」


「秘密よ」


人指し指を立て、唇に当てる。それが様になるのは、流石美形といったところか。


「ねえ、ライラ様。(わたくし)のことは、ルーシーと呼んで下さい」

「は、はいっ。えっと、ルーシー様」


「何から何まで可愛過ぎます……!」

ふわりと温かいものに包まれ、独り言なのか、彼女が何か呟いた。って、ルーシーに抱き着かれてる!?


「あ、あの、えっと、ルーシー様っ!」


「決めましたわ!ライラ様は、絶対にエルに渡しません!!」


狼狽える私と、さっきより腕に力を入れるルーシー。それに、状況に追い付けないぽかんとしたリウゴウ先生。



因みに。この直後、リウゴウ先生とルーシーが従兄弟だと知って、私はさらに混乱することとなる。

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