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モブなので、関わらないで下さい  作者: 雨月 涙
幼少期編
3/7

2

二日後。

体調がよくなったということで、早速家庭教師を付けられたんだけど__


「噂には聞いていたけれど、とても綺麗な方ね」

お母様が羨ましそうにというか、含み笑いで私を見る。


「そうかい?」

お父様に至ってはお母様の発言に拗ねていた。童顔だからか頬を膨らませても似合っている。お父様、二十代だよね。


一方当事者の私は文字通り固まっている。だって、彼って……。


「本日を(もっ)てライラ・ティアード様の家庭教師を務めさせていただきます、エル・リウゴウです。以後、お見知り置きを」


紳士の礼をし、ニコッと微笑む彼。


切れ長の紫色の瞳に少し幼い顔立ちをしていて、たぶん十代前半くらいだと思う。肩辺りで動きに合わせて揺れる銀髪が耳下、パープルブルーの細いリボンで束ねられている為、それが大人っぽい雰囲気を際立たせているのかもしれない。


(いず)れにしても……。


「……初め、まして。ライラ・ティアードです。これからよろしくお願いします」


何で彼がここにいるの!?

口から出そうになる言葉を飲み込み、淑女の礼をする。

私の礼に応えるように微笑む彼は、(まご)うことなき私の知るエル・リウゴウだ。


「ライラ、今日はあなたの学力を知る為の試験をするのよ」

「試験ですか?」

正直情報整理したいんだけど……それを言えるわけもなく。


私は促されるまま試験を受けることとなり、お母様とお父様は退室。

部屋には私とエル・リウゴウが残された。


「失礼ながらお聞きしますが、ライラ様は字の読み書きが出来ますか?」

「はい。一通りは」


この世界の共通語は日本語。名前は外国人っぽいのにな、と何度も思ったけどね。


「では、こちらの問題を解いて下さい」


机に数枚の紙が置かれる。国語と算数……あとは歴史かな。

始めの合図と共に、さらさらとペンを動かしていく。

現世(ここ)の七歳児の学力基準がわからないから、前世の子と同じくらいに設定して埋めた。



……それが失敗だとは気付かずに。



        *



エル・リウゴウ。

レインチス・アストランチア。

フィオ・ナーチス。

チセ・アミュレニシス。



彼らは私が前世でやっていた乙女ゲーム、『君ありて幸福』の攻略対象である。豪華な声優陣も()ることながら、人気イラストレーターさんによるイラストなど、ファンの間ではかなりの人気で……とそれは置いといて。


『君ありて幸福』。通称『君あり』は、中世ヨーロッパ風の剣と魔法の国で、魔法学園を舞台に恋を(はぐく)む王道乙女ゲームだ。


この世界では魔力を持って生まれる者がおり、その大半が貴族である。稀に平民に生まれる者もいるが貴族に引き取られる為、結果的に成人(十五歳)を迎える頃には、魔力持ちは貴族にしかいないのだ。


そんな中見つかった魔力持ちの平民の少女。

それだけでも彼女は学園で目立った。しかし、着目すべきは、彼女の『魔力』にある。



光の魔力持ち。



六つある魔力の中でも稀なそれは、『治癒』を最も得意とする。保護の目的も兼ねて魔法学園に入学した彼女は、持ち前の明るさと直向(ひたむ)きさで攻略対象の心の闇を取り除き、様々な壁を乗り越えてやがて結ばれる__というのが『君あり』の大まかなストーリーだ。


エル・リウゴウは研修生という立場で伯爵子息。女嫌いの女好きで、どっち付かずの態度を取って揉めさせたり、傷付く顔を見て(たの)しんだりと、お世辞にも良い性格とは言えない彼は、過去にある少女にキツく当たられたのが原因で__


「ライラ、何書いてんだ?」


聴こえてきたソプラノの声に、条件反射で紙の上に本を置いた。

「あ、アレン。ちょっと予習してたの」

「ふーん。明日から家庭教師付くから?」


安定無表情のアレンは私の兄。とはいっても、数ヵ月の誕生日の差しかない。

艶々の黒髪に蜂蜜を垂らしたような瞳で、本人の性格もあるのかどこか猫っぽい。


私は前世のゲーム内容を書いていたことがバレていないことに安堵しつつ、

「アレン、私に何か用があったんじゃない?」

()り気無く話題を逸らして聞いてみる。


「あー。この本、ライラが探してたやつだろ?」

彼の手には、私が先程探していた、この世界の歴史が記された本が掴まれていた。


「……なんで窓の外なんて眺めてんだ?」

「いや。アレンが珍しく優しくするものだから……」

「今日は朝から快晴だっ!!」

偶々(たまたま)読んでただけだ、と本を渡すアレン。少なくとも、私の知るアレンは歴史書なんて読まない。絶対。


「そういうことにしとく。ありがとね」

「……ああ」


逃げるように、アレンは部屋から出ていった。足音が遠ざかるのを確認し、その本を開く。



アストランチア王国、王立魔法学園『ペラルゴ』。



そこは(まさ)しく、『君あり』の舞台である魔法学園であった。

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