前世の最期
「合、格……」
日本の中心である東京。まだマフラーを手放せない時期、私は友人と掲示板に張り出された合格発表を見ていた。
「やった……。合格……合格したよ、私!」
「おめでとう!私も合格だよ!」
人の邪魔にならないところに行き、友人と抱きしめ合って喜ぶ。
運動部だった彼女との身長差をコンプレックスに感じていたが、今は全く気にならなかった。
「これで今日から男の娘攻略に集中出来る!!」
拳を握る私に彼女は苦笑する。大学合格のご褒美として宣言したから、今まで乙女ゲームに手をつけなかったのだ。
「相変わらず律儀よねー。見掛けに反して」
「人のこと言えないでしょ、元隠れオタク」
毒突けば、「別に隠してたわけじゃないですー」と唇を尖らす。
ぶーぶーと歩きながら以前の文句を言う彼女は、学校で優等生の彼女とは別人にしか見えない。
「それより、男の娘の攻略法教えようか?」
「間に合ってます!乙女ゲーは自分でクリアするから良いの」
「えー。スチルの方が大事よ」
確かにスチルも大事だけど、バッドエンドとかヤンデレルートとかのはトラウマものだし。
私の考えていることに気付いているのかいないのか、友人がニヤリと口角を上げた。
「そうそう。男の娘キャラだけど、ヤンデレルートあるわよ」
結構刺激強いからね、と心配のしの字もない口調で、私の頭を撫でる。
私は恨みを込めて、ギロリと彼女を見た。
「あと、隠しキャラがいて……」
「あーあー。聞こえない、聞こえないーっと」
これ以上ネタバレされて堪るか、と耳を塞ぐ。
すると、いつのまにか膨らんでいた頬を彼女に突かれた。
「はいはい、ごめんって。拗ねないでよ」
「むぅー。自分が全ルート制覇したからって、ネタバレしないでよね」
顔を上げれば、ドヤ顔した彼女と目が合う。……殴っていいかな。
「ま、頑張ってね。あのキャラのスチルは綺麗だし。私は研修生のが好きだけど」
「それだけは本当理解出来ない。女たらし断固拒否。生理的に受け付けない」
「……本当アンタ、ギャップが凄いよね」
なぜか呆れられた目で見られた。解せぬ。
「見掛けに反してとかギャップとか、いったい私のこと、どう見てんのさ」
彼女に視線を向ける。と、迫ってきているトラックに気づいた。赤信号だというのに、止まる気配がない。
「ちょっ、何!?」
友人を押し退け、反動で横断歩道に出る。……ここで身長差があだになるなんて。
目の前が真っ赤に染まり、激痛が走る。だんだんと遠ざかる意識の中、「この馬鹿!!」と叫ぶ彼女が見えた。
それは私がまだ前世にいた時の話。