レッスンファイナルでございます。
「……」
「……」
「……やる気あるの? でございますでしょうか」
「……ごめんなさい」
言葉攻めにあう幼気な俺。
御察しの通り、二死したわけです。二日台無しになったよ! ビバ夏休み!!
「あのこれ、ごく普通のお土産木刀ですよね?」
「それが何か?」
「……いえ、ごめんなさい」
せめて、棍棒くらい欲しいと思ったが口にはすまい。
「あの、スライムってイメージだと一番弱い! って感じなんですけど」
「おっしゃる通りでございます」
「…………一番弱い魔物が魔法とか使ってくるんですか?」
「なるほど。どうも不服なご様子なので、魔法を一切使ってこない『トロル』でもご用意いたしましょうか」
「トロルっていうと……」
木槌やら金槌やらを振り回す無駄に図体ばっか大きくなった脳筋のあれ?
「ガチムチのキモメン? 名前の通りトロそうだけど、もし当たったら痛いよね?」
「顔面にヒットすれば一撃で脳漿が華麗に飛び散ること間違いなし、でござます」
「色々な意味でヤバいでしょ、それ!?!?」
「チカチカと、目に火花が飛ぶ様や、頭に星がクルクル舞う姿が観測されること請け合いでございますね」
「いや、もうそういう次元じゃないから! 脳●ソがスプラッシュしてるじゃん!?」
「ちなみに、トロルはガチムチのキモメンではなくバスターソードを二本指で振り回す細マッチョなナイスガイでございます。まさに疾風迅雷」
「それもうトロルじゃないよね!?」
「神田様のトロル像とやらは、どうにもわたくしの趣味ではございませんので。誰得でしょうか? 神田様得? 漢相撲ですね?」
「ちげーよ!! よく受けに間違われるけど、そういう趣味ねーから!!」
「残念でございます」
「婦女子!?」
特に残念がる様子も見せず、無機質に指を鳴らす女史。
階段状に細かく刻まれたBGMと共に、次のトレーニングとやらがやってくる。
「では、レッスン10でございます」
「飛びすぎ!! まだ1しかやってないよね!?!?」
こうして、アイリカが呼び出したチュートリアルモンスター?
邪気眼、四本腕の立派な魔物は、自在に空を飛び、火を吹き、氷を放ち、天雷を呼び寄せ辺り一面を焦土と化した。
無論、駆け出しの自分が敵うわけもなく、というか空を飛んでるせいで木刀は一切届かず、魔物は見下すように「フォフォフォフォ」と笑いながら雨霰のように魔法を降り注ぐだけだった。
……これ何てク●ゲー?
「ちなみに、これが魔王(仮)でございます」
「魔王かよ! 魔物じゃないじゃん!! つか、魔王てレッスンに来てくれるのかよ!? てか絶対倒せないだろそれ!!??」
「矢継ぎはぎでございますね。魔王は新米冒険者の魂を喜んで食べに……げふん。お優しいので、神田様の成長にご協力していただけるのでございます」
「うはは、やっぱりそういうオチか! だって魔王に自分を倒す勇者を育てるメリットなんてみじんこたりとも無いよなぁ!」
もはや言ってて自分が悲しくなってきた。
「では、神田様。次は“大魔王”でございます」
「さらりとスルーした上に無茶苦茶すんなぁーーーー!!!! 俺の夏休みを返せぇーーーーー!!!!!!」
こうして、無慈悲に夏の休日は消化されていくのであった。
南無南無俺。