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レッスン2でございます。

 


「惜しかった、でございますね?」

「――どこが!? しかも、疑問系!?」


 自分の身に何が起こったのかは分からないが、気付いたら横になってて、目を開けたらアイリカが居た。

 それだけである。


「敵の攻撃……スライムの放った『火系の魔法』によって、神田様があっけなくお亡くなりになってしまった。のでございます」

「……え? 俺、死んだの?」


 いきなり?

 ていうか死んだって?


「左様でございます」


 おいおい。

 人ってそんな簡単に死んでいいものなのか。全く実感ないけど。


「っていうか、死んだならここに居る俺は何? 幽霊?」


 足あるよ? 脛毛だってちゃんと生えてるし。


「もちろん、生身でございます。これが、ハロークエストにおける『安全措置(セーフティ)、でございます。簡単に申し上げますと、この異世界でお亡くなりになっても命を落とすことはありません。『安全地帯(セーブポイント)』から自動的に蘇生されるのでございます』

「…………わかるようでわかりたくないというか。ますますゲームっぽいね?」

「認識としては……そう考えていただけるのが一番理解が早いでしょうか。しかし、先ほどは一瞬でお亡くなりになってしまいましたので、お気付きになられなかったかもしれませんが、痛覚などはそのままですのでご注意を」


 ――ちょっと待て。

 今さらっとさりげなくとんでもない発言をしたぞ。


「それってとどのつまり殴られると痛くて、死ぬともっと痛い――と?」

「その通りでございます」


 聞いてねぇぞ、こら!?

 死んでも死なない――日本語おかしいけど、それはともかくとして何で痛覚はそのままなんだ!!


「従って、この世界で拷問などを受けると大概の方は精神に支障をきたします」

「そりゃそうだろ!」

「幸いなことに、命を失えば復帰できますが……死なない程度に拷問をされると廃人がミッションコンプリートです」

「意味わかんないから! ていうかゲームなんだから痛覚くらい消してくれ!!」

「ゲームではなくクエスト。それとインポッシブルでございます。よっていつでも舌を噛み切れるよう訓練しておくことをお勧めします」

「この歳でそんな訓練も経験もしたくないよ!」

「ただし、死ぬことに一切のデメリットがないかと言うと、そういうわけでもありません」

「話聞いて!」


 ……っていうかデメリット?


「あの……それって……」


 俺、既に一回死んでるんですけど。


「ご説明いたしましょう。当世界……名称は【イル・ルビリア】と言うのですが」


 イル・ルビリア。

 それがこのゲームの名前らしい。


「現在、時間倍率設定は“60”となっております。(すなわ)ち、現実世界(あちら)における1分が、こちらの世界(イル・ルビリア)における1時間に相当するのです」

「1時間――!?」


 なっ、なんだってーーーーー!?

 こんな身近な場所に、まさか精神と●の部屋が実装されていたとは!!!!


「従って、仮にこちらで30日を過ごしたとしても、現実世界(あちら)では12時間のみの経過――となるのでございます」

「ま……マジすか……!」


 無意識に目を輝かせる。


 ――なんて素晴らしい世界だ!

 つまるとこ、こっちで6時間寝ても、向こうでは6分しか経ってないと?

 まさに夢の世界だ。昼寝だけに。


「よし寝ます」

「どうぞ。生きたまま魔物に臓物を食されるのがお好みでしたら」


 ごめんなさい。寝ません。


「え、えーと……こっちの世界で夏休みの宿題とか……」

「それも不可能でございます」


 きっぱりと言い放った。


「ホワイ? もしかして出入りできない、とか?」


 出入り、という表現を使ったのは、最悪この世界からの脱出だけでも否定されたくなかった心理かもしれない。


「原則として言うなら、一応、出入りに関しては絶対に不可能――というわけではありません。ただし、世界間移動に際しては、お互いの世界における物質の持ち込みは絶対に不可能なのです」

「あ。結構在り来たりな理由なんだ……」


 言われてポケットを探ってみると、確かに携帯とサイフがなくなっている。


「ちな、持ち物ってどこに?」


 あえてサイフとは口にしない。


「神田様が所有しておりました品物に関しては、ハロークエストにて責任を持ってお預かりしております。もちろん、衣類も同様です」

「衣類って。俺もアイリカさんも服着てるよね?」


 上から下までじっくりと眺めてみるが、どう考えても服を着ている。

 残念だが着ている。彼女も自分も。ちっ。


「真っ裸な人生で放り出されたい――という神田様の嗜好も苦慮はできますが」

「や、そんな嗜好ないから」

「先に申し上げた通り、品格――を当社では重く見ておりますゆえ。最低限の衣類は保障されているのでございます。とは言え、もちろん神田様がご着用されていたものとは別――こちらの世界感に合うよう再現された装備、になりますが」

「上半身裸マントに覆面装備なのは、何かの間違いですよね?」

「メイドインユ●クロ。列記としたブランド商品でございます」

「そういう危うい情報はいいから!」


 不意打ちでいきなり世界感壊されたよ!?


「話を戻します。それで、デメリットですが――」

「あ」


 そうだったそうだった。

 既に忘れてた、などとは言うまい。


「死ぬ度に、現実世界におけるお時間を少々いただくことになります」

「……はい?」


 え、ちょっと待って。それって、つまり……


「神田様が死んでおられる間、復活の儀式を執り行うための時間が掛かる――そう思ってくださいませ」

「あぁ、教会のアレみたいなことを略式じゃなくてリアルに再現してるんだ……」

「葬儀とか火葬とか」

「復活させる身体を灰にしてどうする!?」

「人は灰と土を混ぜ捏ねて生み出されたのでございます」

「嘘ん!?」

「冗談です。ハロージョークでございますよ」

「………………」


 真顔で言われても反応に困る罠。


「ともあれ。一度死ぬと、現実世界ではおよそ一日が経過する仕組みになっているのでございます」

「え。一日?」


 ――死んでる! 俺もう一回死んでるよ!?

 知らない間に休み一日消化しちゃったの!?!?


「なんということでしょう……」


 平日真っ只中かつ学生の身の上である僕は、なんと現実では既に丸一日ハロークエストで過ごしていたのです。

 というか音信普通で丸一日帰宅してないとか、大丈夫なのか?


「ご心配は無用です。既に各関係者への羞恥……もとい、周知は済ませてございます」

「心を読まれた!?」


 ――怖いよ、手際が良すぎて怖いよ、アイリカさん!

 しかも、何か言葉じゃ分かりにくい二段構えのオチ付きだし!! 


「……でも、どうやって?」

「ご想像にお任せいたします」


 にっこりと、動作が優雅すぎて逆に怖いです。割と真剣(まじ)で。


「というわけで、早速レクチャーに戻りましょう」

「何が『というわけ』なのか詳しくご説明いただきたいのですが、無理なんですよね? えぇ、わかってます。もう何となくわかるようになってきました」

「エクセレント、でございます。パチパチ」

「バカにされてるものわかるようになってきた自分が悲しい……」


 だが、人生諦めも肝心。


「では、これを」


 と、アイリカに渡されたのは――――なんと“武器”だった。


「お、おぉ……」


 さすがに布の服一貫で冒険に放り出されるわけではないことに安堵する。

 でも、これって……


「……木刀?」

「木刀でございますね」


 見れば分かるけど、ここは斧が良かったよ!

 っていうか流れ的にゃ斧だろ!!


「えっと……なんか土産屋で見たような気がするんだけど」

「その通りでございます」

「その通りって」


 そこ僕が期待してた反応違うよね? おかしいよね?

 いや、ある意味誰かの期待には応えてるのかもしれないけど。


「何もかもが気のせい。ささ、早速リベンジでございますよ」


 っていうか、武器があるなら初めから渡せよ! 一日無駄にしただろ!


 ――なんて心では思っても、決して口には出さない幼気(いたいけ)なMe。


「これは、説明に対する神田様のご理解までの流れをを円滑にする為の演出でございます」


 確かに理解は早まった気はする。


「……でも、一応聞いておきますけど。心を読めるわけではないんですよね?」

「神田様のお顔に、そうありありと書いてありました」

「……………………うん」


 そこまで顔に出ているのか――なんて考えるまでもなく、そういう顔をした自覚はある。

 まぁ、気を取り直してまずはスライムを何とかしよう。


 そして、俺は木刀を構え、いきり立ってスライムに襲い掛かった。




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