怪
誰もいない。私以外にはいない。この教室にいるのは私だけ。外には雨が降っている。弱々しい雨だ。私みたいに弱々しい。そのくせ近頃こんな雨の日ばかりで憂鬱になる。ひ弱なのに未練たらしい私と同じだ。
この雨が降り止んだら私も消えてしまいそうな錯覚に陥る。この雨は私。私は雨。
嗚呼、なんて――なんて可笑しいのでしょう。
私は人間、哺乳綱霊長目サル目ヒト科ヒト亜科ヒト亜族モンゴロイド人種のポリネシアンの日本に住む人間なのに、なのにっ!
――嗚呼、
彼女は近くにあった机に手を掛ける。そこは彼女の席だ。
雨は降り止まない。雨の音は聞こえない。窓に息を吹きかければ窓が曇る。指でなぞろうとしただけですぐにそれは消える。
だが、彼女は消えない。ここから消えることはない。どのようなことがあったとしても、存在が消えることはないのだけれど、それでも彼女の存在は外の世界において消えている。誰も気付かない。いない。
そのことが彼女を哀しくさせるのではない。憤らせるのではない。彼女の在るこの場所が楽園にはほど遠い事が彼女には悔しいのだ。
グラウンドで雨の中でも練習をするサッカー部を見ていた。彼らは真剣だった。彼氏と一緒に帰る女生徒を見ていた。彼女は幸せそうだった。
窓にぼんやりと写る私を見ていた。彼女は惨めだった。
私は何処にも行けない。
彼女は
何者だ?
私は、
何者だ?
私は何処にも、行けない。
私は眼をゆっくりと閉じ、見開けばそこにあるのは