5.ギルドと登録
宿屋を出た俺は、ギルドへの道を歩いていた。ギルドはグルドの街の中央にある中央広場の一角にあり、街の東西南北に位置する門と大通りで繋がっている。
また、先ほどの宿屋"妖精のささやき亭"は俺が入った東門側の大通りに位置いているため大通りをまっすぐ進むだけで到着する。
「……それにしても、活気があっていい街だな。……他の街知らんが」
大通りは、昼過ぎということもあってか多くの人で溢れていた。聞いた話では街にある商店がほとんどが、この東門側に店舗があるらしくその客を狙った露天商がいくつか立ち並んでおり、良い匂いがする。
俺は、特に良い匂いのする露天に近づいていく。みると気のよさそうなおっちゃんが、なにやら串焼きを売っていた。
「おっちゃん、これなんて食い物?」
「なんだ知らねぇのか坊主!!これはな、この街の名物ティアラビット焼きだ。特に俺のは代々に伝わる秘伝のタレを使ってるからな滅茶苦茶うまいぞ!!」
「マジで!!じゃあ、おっちゃんそれ3本くれ」
「おう、まいど!!気前の良い客は好きだぜ!!3本で銅貨3枚だ」
「…ありがとう。また買いにくるよ」
代金を支払って、串を3本受け取った俺はおっちゃんにお礼を言い、串を頬張りながら歩き始める。…うん、うまい。おっちゃんの言っていた通りタレが物凄い。味の濃さも丁度良く、ほんのりと辛みがあるため食が進む味だ。あっという間に食べ終えた俺は、丁度よく広場に到着する。
「ここが、中央広場か。……ギルドは……あぁ、あれか」
広場の一角には、ギルドの看板がある建物がある。ちなみにギルドの看板は"自由"を象徴する片翼と"力"を象徴する剣が交差している絵が描かれている。
ギルドの建物は、他の建物に比べて大きく3階建てで出入り口には扉がない。扉のない入り口をくぐると、中は思っていたほど人がいなかった。
入って周りを見渡すと、入って正面は受付のような形のカウンターがあり受付らしい人が数人座っている。右奥には階段があり2階に続いているようだ。
さらに、左側は酒場のような状態になっており、そこには既に数人の冒険者が酒を飲んでいる。良く見ると、先ほど門で見かけた冒険者たちのようだった。
まあ、どうでもいいかと受付のほうに歩いていく。受付は皆女性らしく、どの席も空いていたので入り口正面の一番近い席に向かう。
「いらっしゃいませ。本日のご用件はなんでしょう?」
席に近づくと、受付の女性は笑顔でそう言ってきた。女性は黒髪のショートヘアで結構美人だ。良く見ると、頭には髪と同じ色の耳が付いていた。
「……猫耳?」
そう猫耳だ。彼女の頭には猫耳がついていた。あれが、獣人というやつか。この世界に来て今まで会ったのが人族ばかりだから珍しいく感じる。
ふと気付くと目の前の女性が訝しげにこちらを見ている。
「……いかがしました?」
「失礼。いや、知り合いが人族ばかりでね。獣人に会うのは初めてだったんだよ」
「この街は結構獣人が多いと思うのですが?」
「今日この街に着いたばかりでね。今まで住んでいた所も人族しかいないようなとこだったからな」
「あぁ、なるほど。それでしたら仕方ありませんね。しかし、あまり女性をジロジロ見るのは感心しませんよ?あと、獣人が耳や尻尾を触らせるは親愛の証ですので勝手に触るのはだめですからね?」
俺の説明に納得してくれた彼女は、そう注意を呼びかけてくる。確かに。女性の顔をジロジロ見るのは不躾だった。しかし、獣人の習慣を知れたのは良かったかもしれない。
「あぁ、気をつけることにするよ。教えてくれてありがとう」
「いえいえ、それで本日は依頼ですか?」
「いや、今日は登録をしに来たんだ。この間成人してね。これを気に冒険者になって身を立てようかと…」
「そうなのですか。でしたらこちらの用紙に記入をよろしくお願いします。代筆の必要はありますか?」
そう言い、机の下から一枚の用紙を取り出した彼女はこちらに用紙を渡してくる。用紙には、名前と年齢、使用武器、技能などの項目が並んでいた。
「いや、大丈夫だ。…これって全部書かないといけないのか?」
「いえ、名前や年齢、武器は書いていただきたいですが、技能のほうは出来ればで良いですよ。技能のほうは、書いておいたほうが指名依頼がしやすいだけですので…」
「…名前は、本名じゃないとだめなのか?」
「……え、と一応は本名で書いていただきたいですが、中には正体を隠すために偽名で登録される人もいますが……」
「あぁ、別に偽名で登録したいというわけじゃない。一応の確認だ。……とこれでいいか?」
話しながら紙を書き終えた俺は、それを受付に差し出す。紙を受け取った女性は用紙の項目を見て、確認をしている。
「…お名前は、シドさん。年齢は13で使用武器は剣。技能欄は空欄でよろしいですか?」
「あぁ、それで頼むよ」
「了解しました。……それでは、少々お待ちください」
用紙を受け取った受付は、用紙を別の職員に渡しこちらを向く。
「それではギルドカード生成まで少し時間が掛かりますので、それまでギルドの説明をしようと思いますがいかがいたしますか?」
「あぁ、よろしく頼む。冒険者のことは一応聞いているが、一応間違いがないか確認したいしな」
「了解しました。まず冒険者にはランクが存在しGランクからSランクまであります。Gランクは10歳以上13歳未満の成人前の人が登録する際になるランクで、13歳以上の人はFランクからのスタートになります。ランクは依頼などを一定以上達成することで上げることができます。
一定ランク以上からは昇格試験があり、Cランク以上になると有事の際に強制召集がありますのでご注意ください。
また、犯罪を含む違法行為をした場合は最悪の場合脱退処分となりますのでご注意ください。
ここまではよろしいですか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「……わかりました。では次に、依頼についてですが。依頼にもランクがあり、冒険者は自分のランクの一つ上のランクの依頼まで請けることが出来ます。依頼には通常依頼、常駐依頼、指名依頼があります。
指名以来は特定のパーティや個人に名指しで依頼がされる場合があります。こういった依頼は、必ず請ける必要はなく無理だと思った際にはギルド側に申請をしてくだされば、依頼を取り下げることも可能です。
ギルドについてはこれくらいでしょうか。何か質問はありますか?」
「……パーティってどうやったら組めるんだ?」
「パーティはギルドカードを重ねてパーティ登録と念じればパーティに登録されます」
「依頼の失敗や途中でやめることは出来るのか?」
「できますが、その際には依頼料の3割の罰金があります。また、状況によってはギルドランクの降格もありますのでご注意ください」
「……わかった。とりあえず聞きたいことはそれくらいだ。またあったら聞きにくるよ」
「了解しました。……丁度良く、ギルドカードが出来たようですね。こちらをどうぞ」
ギルドの説明を終えると丁度良くギルドカードが出来たらしく、先ほど登録用紙をもって行った職員が、一枚のカードを持ってきていた。それを受け取った受付の人はカードをこちらに渡してくる。
「ギルドカードに魔力を流すと先ほどの内容が表示されます。その際に魔力登録がされて貴方以外に使用できなくなりますので、ご確認をお願いします」
ギルドカードを受け取ると受付の人がいったように魔力を流す。すると彼女の行ったとおりギルドカードの表面に文字が浮かび上がってきた。
シド(13)
ランク:F
武器:剣
技能:-
パーティ:-
確認すると、先ほど用紙に書いた通りの情報が表示されていた。どうやら間違いはないらしい。
「……確認した」
「でしたら、これでギルド登録は完了です。……それで、依頼は如何しますか?」
「……じゃあ、簡単な討伐依頼でもあればそれを請けたい」
「……討伐依頼でしたら、常駐のゴブリン討伐などどうでしょう?」
そういって依頼書を渡してくる。依頼内容はゴブリンを5体討伐で銅貨2枚。簡単だが、肩慣らしには丁度良いだろう。
「じゃあ、それで。討伐したら如何すればいいんだ?」
「討伐証明を持ってきていただければ、ゴブリンの場合は耳ですね」
「了解した。……じゃあ、早速行ってくるかね。……そういえば名前を聞いてなかったな、聞いていいか?」
「もちろんですよ。私は、チェルシーといいます。今後ともよろしくお願いしますね」
「あぁ、こちらこそよろしく」
登録を終えた俺は、簡単な依頼を請けて立ち上がる。そのまま、ギルドの出口に向かうと逆にギルドに入ってくる男がいた。
男は腕に包帯をしており、その顔には焦りが見えた。まあ、俺には関係ないかとすぐに目線を戻しギルドを出る。出た直後に男の大声が聞こえたが、特に気にすることもなく東門に向かうことにする。
初の依頼だし、張り切っていこう。