プロローグ
※【自己支配】…自身を完全に支配でき、能力の限界を超えない限り自身のイメージ通りに体を動かすことが出来る。
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【自己支配】…自身の肉体、精神、魔力を完全に制御することができる。
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「という訳で君には異世界に行ってもらうよ」
目の前にいる美女は胸を張りながら告げる。周りを見渡せば荒野のような景色が広がっており、視界を遮る山はもちろんのことちょっとした起伏すら存在していないため、どの方向をみても地平線が見ることが出来る。
そして目の前にいる絶世の美女が、自称剣神。剣神と名乗るに相応しく腰には一本の大剣がぶら下がっている。そして彼女自身も、剣神を自称するだけあって、かなりの威圧感をもっている。別段、威圧を放っているわけではないが、ただそこに立っているだけでもその存在感は既に人のそれではないように感じられる。
「異世界に行くのは良いんだが、本当にいけるのか?」
「なんだ、信じてなかったのかい?そのために、君には死んでもらったのに」
そう、彼女が言うように俺は死んだのだ。死因は、簡単に言えば衰弱死ということになるのだろうか。まあ、神様パワーで死んでいるのでそんな感じに処理されるらしい。まあ、死んだ側からすれば関係ない。
そもそも、なぜそんなことになったのか。簡単に言ってしまえば、俺と目の前にいる剣神の二人にメリットがあったからだ。俺は、平成の日本で育った高校生だ。ただ少し普通ではなかったのが、実家が数百年続く剣術道場であったことだ。そこで5歳から剣術を習っていた俺は道場主であった祖父や師範であった父に将来を有望視されていた。
しかし、剣を握り続ける内に俺のなかにはどうしようもない焦燥感があった。才能を発揮することの出来ない現状とそれに反して磨かれ続ける剣の技術。そんな焦燥感が募り続けた俺は、10歳になる頃には剣を握るのをやめていた。そんな俺に父や2歳年下の妹はいつも説得をしてきていたが、それも数年でなくなり逆に見下したような目で見るようになった。まあ、道場主であった祖父や母は全く変わらず接していたが。
そんな感じで生活を続けて高校3年になった時だった。突然目の前に現れた美女は「その才能存分に振るいたくは無いかい?」、そう俺に言ったのだ。そして俺は、死んだのだ。
「別に信じてないわけじゃない。ただ確認しただけだ。それより、ここはどこだ?」
「ここかい?ここはあれだよ。君らの言うところの神界?みたいなところだね」
「神界?じゃあ他の神とかもいるのか?」
「ん?ああ、いや、そもそも神界というのは神がそれぞれ独自に展開している空間だからね。他の神はいないよ。まあ、世界というより家とか部屋っていうほうがイメージとしては正しいね」
「ここ、部屋って広さじゃないだろ…」
「まあ、ぼくの場合は剣を振ったり他の神と戦うこともあるからね。広いほうが便利なんだよ。神同士の戦いとかどんなに広くても、広すぎるということが無いからね。だから、他の神とかだと君の考える部屋みたいなのに住んでいる神もいるよ」
「なるほどな。いや、でも飯とかは?こんな荒野じゃ食べ物とか手に入るのか?」
「まあ、神だからね。食べなくても良いんだよ。食べられないことも無いし、食道楽な神もいるよ。ぼくなんかは、剣さえ振れてれば満足だからそれ以外は割とどうでもいいけどね」
そういいながらケラケラと笑う剣神。どうやらかなりの戦闘狂らしい。
「と、そろそろ本題に入ろうか。いつまでもこうしているわけにもいかないしね」
「あぁ、よろしく頼む」
「じゃあ、まずは君のいく世界についてだね。世界の名前は《ウェイル》といって、ぼくの管理している世界だ。あぁ、ちなみに名前の由来はぼくの名前がソウェイルって言ってね、そこから取っているんだよ。世界の説明だけど、簡単に言えば君の世界の小説に良くあるファンタジー世界だね。魔物とか魔法とかスキルとか、あとステータスとかもあったかな」
「それってあれか?筋力値とか魔力値とかある感じなのか?」
「いや、流石にそれは無いよ。……まあ、実際に見たほうが早いかな。とりあえずステータスって念じてみてよ」
説明が面倒くさくなったのか、突然そういうソウェイル。まあ、ここで反論しても仕方ないので、素直に言われたとおりにする。すると目の前に青白く光る半透明な板のようなものが出現する。板にはなにやら文字が書かれていた。
鶴来 士道(17)
種族:人族
性別:男
魔法:-
技能:自己支配、心眼、剣の鬼才
称号:転生者
板に書かれていた文字を読むとこう書かれていた。名前やその横にある数字は年齢ということだろう。種族や性別も理解できる。問題はその下に続く、魔法と技能それに称号という欄だ。まあ、大体理解できるが。
「魔法と技能とかってなんだ?」
「魔法っていうのは、魔法才能のことだよ。ウェイルでは生まれながらに魔法才能を持って無いと、魔法が使えないんだ。魔法才能は火・水・風・土の下位4属性と時・空間・重力の上位3属性の7つに分かれていて魔法才能があるものだけ使えるんだ」
つまり、魔法の欄に何も書かれていないということは、魔法を使えないということか。
「…そもそも魔法って何なんだ?」
「魔法っていうのは魔力を使ってイメージを具現化する力だね。適性のある属性しか魔法として発動できないんだ。つまり火の属性の人が水の槍をイメージしても発動しない。ただ槍のイメージだけで発動すれば炎の槍が出来るね。あと、魔法とは別に魔術っていうのがあるんだけど、こっちは技術的なものが必要になる代わりに魔法才能が無い人でも使えるから結構普及しているよ」
「なるほどね。じゃあ、技能ってのは?」
「そっちは生まれながらにしてもっている才能のことだよ。君が持っているのは3つだけど、ウェイルの人は1つ持っていれば良いって感じだね。だからって3つ持っている人がいないというわけでも無いよ、珍しくはあるけどね」
「じゃあ、俺の持ってる技能ってどういう才能なんだ?」
「あぁ、それはステータスで確認できるよ。やり方としては、それぞれを確認したいと念じるだけだね」
ソウェイルに言われた通り、早速技能の確認をすることにする。魔法が使用できない以上今の俺にある武器は技能だけだろう。
【自己支配】…自身の肉体、精神、魔力を完全に制御することができる。
【心眼】…肉眼では認識出来ない事象を認識することが出来る。
【剣の鬼才】…人智を超えた剣の才能を発揮することが出来る。
なんというか3つともかなりチートくさい能力だ。【心眼】や【剣の鬼才】などは生前からある種の感覚はあった。自分の剣の才能が普通ではないことは理解していたし、自分の眼が異様に良いことも理解していた。【自己支配】については、まだ良く分からないから保留といった感じだ。凄そうではあるが。
そんな風に自分の技能を見ながら考えていると、ふと嫌な視線を感じ目線をステータス画面から上げる。すると、そこには俺のほうを見ながらニヤニヤと笑うソウェイルがいた。
「なんだよ?」
「いやいや、すばらしい技能を持っていたみたいだね。顔が嬉しそうだよ?」
「うるせぇ、見てんじゃねぇよ」
ニヤニヤ顔で見てくるソウェイルに苛立ちつつも、そういうと、ソウェイルは殊更ニヤニヤと笑う。どうやら余程嬉しいらしい。こっちはストレス値がかなり上昇しているが。
「まあまあ、良かったじゃないか。こちらとしても転生させるんだから、それなりに才能があってもらったほうがいいしね。と、まあステータスについての説明はこんな感じかな。あぁ、称号については簡単に言っちゃうと世界の君に対する認識みたいなものだよ。犯罪とか犯してもそこに称号が付いちゃうから気をつけてね」
「わかった。気をつけておく」
「うんうん。それで、他に聞きたいことってあるかな?」
「そうだな。……転生という話だがどういう感じで転生されるんだ?」
「あぁ、そこらへんの説明がまだだったね。取り合えずは、10歳くらいの子供として向こうに適当に下りてもらうよ。流石に生まれたては面倒くさいだろ?」
それは確かにそうだ。0歳とか行動も出来ないし、不便としか言いようが無いからな。
「それは助かるが、何で10歳なんだ?」
「だってせっかく人生やり直すなら、やり直すべき分岐点からじゃない?君の場合、10歳で世界に絶望して剣を捨てたろ?だったらそこからやり直すべきかなと」
そういって微笑むソウェイル。その顔は先ほどまでの人をおちょくるような笑みではなく、わが子を慈しむ様な笑みだった。その表情と言葉に目頭が熱くなった俺は、顔を背ける。
「ふふふ。あぁ、楽しい時間というのは過ぎるのが速いね。もうそろそろ時間のようだし、準備は良いかな?」
「あぁ、ありがとう。なんというか、あんたには感謝してもしきれないな」
「いやいや、いいんだよ。こっちの勝手で君には転生してもらうんだから。そうだ、向こうに下りたら迎えがいるから、とりあえずその人にいろいろ教わると良いよ。剣の技術は兎も角、魔力の使い方なんて分からないだろうし。一応向こうじゃ、最強の剣士として有名な人だから君としても目標というかライバルになるだろうしね。それじゃあ、向こうに行っても頑張ってね」
ソウェイルのその言葉を最後に、俺の意識は暗転した。