■第9話 後方からの視線
【グローブ】:今日もゴトウ君、パン食べてたんですよね~
ミノリが、ハヤト扮するmossoと電波を通し言葉を交わす、夜10時。
うっかり ”ゴトウ ”と、想う人の名を発してしまって以来、ミノリは隠す
ことなく堂々とその名を画面に打ち込んでいた。
ハヤトがドキっとする。
クラスメイトなのは間違いない。確定だ。
【グローブ】:なんかマズそうに食べて、
天井ぼんやり見てる姿がなんとも・・・
言ってくれれば、私が毎日でも作ってあげちゃうのになぁ~
グローブは、ハヤト後方から見ているという事のようだ。
(いや、でも。 俺・・・
一番前の席だし・・・ ほぼ、みんな後ろじゃんか・・・)
【mosso】:グローブさんは、ゴトウ君と席近いんですか?
さり気なく、何気なく探りを入れて訊いてみる。
【グローブ】:ゴトウ君は一番前の席なんで。 遠いんです、これが・・・
( ”遠い ”ってことは、すぐ後ろとか
2~3コ後ろ、って事じゃないよな・・・?)
グローブが綴った、昼休みの弁当のことをふと思ったハヤト。
【mosso】:でも、親が弁当作ってくれない家庭なんて
珍しくないんじゃ?
ウチだってそうですよ。当たり前に毎日買ってます。
【グローブ】:そうなんですかー。
でも、たまに。お弁当食べたくなりませんか?
あの冷めた玉子焼きとか、しっとりしすぎた揚げ物とか。
(食いたいよ・・・ 食いたいに決まってんじゃん・・・)
【mosso】:そうですね。 まぁ、たまにはw
【グローブ】:mossoさんが同じクラスだったら
一緒に食べれるのにね~
放課後にお茶したり。 女子会とかしたりしてw
(・・・女子会??)
【mosso】:女子会?
【グローブ】:ん?女子会。 キライ?女子会とかそうゆう系。
(あれ? 俺・・・ 女子だと思われてんのか・・・)
【mosso】:ううん。 行った事ないだけ。
咄嗟に誤魔化した。
嘘はついてない。
女子会には行ったことはない。
何故なら、女子ではないから。
だから、嘘はついてない。
・・・嘘、ついてない・・・?
なんだか。
なんとなく。
この、言葉の遣り取りをやめたくなかった。
静まり返った部屋にキーボードを打つ音だけが響く。
ハヤトがキーボードに両の手を置いたまま、首をもたげた。
頬が、少しだけ熱くなっていた。