表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/41

■第8話 母親



 

 

毎朝、キッチンの食卓テーブルの上には千円札が3枚置いてある。

 

 

 

グラスの飲み口を逆さにして、その紙幣がとばないよう押さえて。

イタリア製の高級クリスタル・ブランドの、それ。

大手有名化粧品メーカーで役職に就く母親が愛用しているグラスだった。


高級ブランド品のストレッチコットンジャケットを着こなし、同じブランドの

レザートートバッグを、嫌味にならないようさり気なく持つと、

 

 

 

 『また、高校生の息子がいるようには見えないって言われちゃったわ。』

 

 

 

と、真っ赤な唇でハヤトに得意気に呟く母親。

嫌忌すら憶えるその赤色を、感情がない空虚な目で見ていた。

 

 

 

 

 

この三千円で、毎日ハヤトは昼食と夕食を買っていた。


学校に行く途中の、いつものコンビニ。

菓子類の棚裏にあるやたらと日持ちするパサパサのマズいパンと、

缶コーヒーを買う。


冷気流れる要冷蔵コーナーに並ぶサンドイッチ類の方が、まだマシなのは

分かっていたが、コンビニ飯に美味しさを求める自体バカらしく感じていた。

 

 

 

 

 

昼休み。

友達が母親手作りの弁当を、さも当たり前に頬張る姿をぼんやり見ていた。

 

 

 

 

  (腹に入れば、どうせおんなじだ・・・)

 

 

 

 

乾いたパンを、口に入れ、数回噛み、飲み込む。

それの繰り返し。


たまに無性に友達の食べる、形の悪いおにぎりが美味しそうに感じ、

一口もらってみる。

朝に握ってから時間が経ったそれは、湿気で海苔がしっとりし過ぎて

唇や歯にくっ付く。

中央にあるはずの紅鮭は、片側に寄ってしまっていてすぐに有り付けた。

 

 

 

 

  (手作りなんか、いつから食ってないんだろ・・・)

 

 

 

 

自席のイスに浅く腰掛け背もたれに寄り掛かり、首を反って教室の天井を

眺めていたハヤト。

自分でも気付かぬうちに、小さな溜息が漏れていたようだった。

 

 

 

遠く後方でそれを見つめる視線があったことなど、ハヤトは知る由もなかった。

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ