■第7話 見えない敵
その日以来、ハヤトはソワソワと落ち着かない日々を送っていた。
ハルカから告白されたのを目撃したという事は、2-Aの教室に入って
来られる人間だ。
という事は、同じクラスという確率が高いという事になる。
まるで ”見えない敵 ”と対峙しているような気分だった。
(誰だ・・・?
誰だったっけ? あん時、教室に入って来たの・・・)
ハヤトは、あの日のことを思い返していた。
ハルカに声を掛けられたのは、あの日の昼休みだった。
『ねぇ。今日の放課後、時間つくって? 話あるから。』
こちらの都合もなにも気にしない、その言葉。
やたらと鼻に掛かった甲高い声が耳障りで。
ハルカは同じクラスで、なにやら ”学年イチ可愛い女子 ”との呼び声高い
らしかった。
なにかとチヤホヤされ、本人はそれをさも当たり前といった風で。
(興味ねえ・・・
ショージキ、死ぬほど、どーでもいい・・・)
元々顔立ちは悪くないのだろうが、明らかなつけまつ毛と
ドぎついコロンのにおい。
なにより、自分で自分を可愛いと信じてやまないその感じ、
世界72億人が自分を可愛いと思っていると疑わないその感じに吐き気がした。
『付き合おうよ。』
ハルカが放課後の誰もいない教室で、自信満々に放った一言。
(なんだそれ・・・。)
まるでハヤトも好意があるかのようなその一言に、心の底からうんざりした。
『いーけど。』 と、敢えて即答する。
それが一番、平和なのだ。
一番の、平和的解決法なのだ。
仮に断ったとする。
こうゆうハルカみたいなタイプは、断られるなんて想定外だから、激昂するか
もしくはギャーギャー泣きわめく。それは悲しみの涙などではなく、プライドを
傷つけられたことに対する憎悪のそれで。
おまけに似たようなタイプの友達に言い振らし”オンナの敵 ”扱いをされ、
陰口を叩かれ、嫌がらせをされ・・・
一連の流れなんか腐るほど経験済だ。
”去る者サイナラ、来たらコンチハ ” ハヤトはこれで通していた。
テキトーに付き合って、素っ気なくしておけば愛想を尽かして向こうから
勝手に去ってゆく。
そして、 ”空き家 ”になったことが判明すると、また同じようなタイプが
放課後呼びにやって来るのだ。
その繰り返しだ。
窓ガラスにぼんやり映った自分の顔をハヤトはどこか冷めた目で見つめていた。
母親似の、その顔。
忌々しい母親に似た、その・・・
(カッコイイんだってさ、この顔が・・・)
見た目だけに寄ってくる空っぽの奴らと、見た目だけしか見てもらえない
空っぽの自分。
冷たく素っ気なくすると、『クールでカッコイイ』と言われ。
普通にしてると『なんか今日は特別やさしい』と言われた。
その、自分にだけ都合いいポジティブ思考。
うんざりだった。放っといてほしかった。
”一言でいうとイジワルです。”
グローブが紡いだ一言を、思い出していた。