■第6話 mosso
mossoは、自室でひとり、サインアウトしたPC画面を見つめて
暫し考え込んでいた。
自分以外は誰も帰宅していない3LDKの自宅の、物音ひとつしない自室。
キーボードの音も鳴り止んだ今、聞こえるのは壁掛け時計の秒針と自分の
呼吸音のみだった。
あの日。
たまたま掲示板で見かけた ”失恋しました ”というスレッドの煮え切らない
内容にイライラし、若干イジワルに書き込んでしまったメッセージ。
それは、八つ当たりとも言えなくなかった。
自分が抱える ”問題 ”の事を考えていた。
打ち明ける相手さえいない。
こんな掲示板でさえも、例えば冗談ぽくネタみたいに装って相談出来たら
どれだけ救われるだろう。
その返信が、例え、上辺だけのキレイな言葉だとしても。
自分の力ではどうしようもない ”問題 ”を抱えている人間だっているというのに
この相談者は、自分の足で進めるくせに、それをしようともしないでウジウジ
愚図愚図と・・・
しかし、
その3日後になって自分の言葉を読み返し、やはり悪いことをしたかもと
悔恨の念にかられた。
少なくとも、
落ち込んで泣いている最中の人間に向ける言葉ではなかったかも、と・・・
そんな遣り取りの末、気が付けば毎晩毎晩HN:グローブと電波に乗せ会話を
するようになっていた。
次第に少しずつ覗く互いの ”素顔 ”に、正直どことなく嬉しさを隠せなく
なっていた。
そんな中、mossoにはひとつ引っ掛かる事があった。
過去ログを読み返し、精査する。
何度も何度も読み返した。
何度も
何度も・・・
まさにあの日、学年イチ可愛い女子に告白され。
互いに同年代の高校生で。
まさかの同じ市内在住。
そして、グローブがうっかり書き込んだ ”ゴトウ ”という名前・・・
『コレ・・・・・・・・・・・・・
俺のこと、じゃないのか・・・・・・・?』
PC前で、ハヤトがせわしなく瞬きをして固まっていた。
画面に身を乗り出し、過去ログを暗記するほど読みふける。
右手に握るマウスは、引っ切り無しに画面の上へ下へ、ログをスクロールする。
液晶ディスプレイの明かりが、ハヤトの顔を照らしている。
それは、驚いていて、困っていて、しかしどこか照れくさそうで・・・
『グローブ、って・・・・・・
誰のことだ・・・・・・・・・・?』