■第5話 流れる言葉たち
翌日、学校から帰り慌てて自室に駆け込むと、ミノリはPCの電源を入れて
掲示板を開いた。
すると、
【Re:Re:Re:mosso】
>グローブさん
別に全然気にしてなかったですけど。笑
きっとグローブさんは、気にしぃな人なんですね。
ヒトの目とか過剰に気にする、あんまり自信ないタイプなのでは?
そんなだと生きてくの疲れちゃいますよ。
mossoの言葉を見つめたまま、ミノリは暫く動けずにいた・・・
その日以来、ミノリはグローブというハンドルネームを使いどこの誰かも
分からないmossoという電波向こうの人と頻繁にやり取りをするよう
になった。
互いに必要以上に素性は明かさず、しかし、それは勿論、暗黙の了解で。
ミノリからも深く突っ込んだ話などしなかったし、mossoも聞いて
など来なかった。
ただ、なんとなく毎晩PCの前に座ってはキーボードを打ち合っていた
のだった。
掲示板では他の人の目についてしまうので、ふたりで遣り取りが出来る
サイトに移り他愛もない話を、連夜くり返していた。
【mosso】:グローブさんの例の人って、どんなタイプなんですか?
【グローブ】:一言でいうとイジワルです。
やたらバリア張って本音見せない感じ。
【mosso】:その人のどこがいいんですか?w
【グローブ】:どこでしょうね?w
ん~。話ぐらいなら聞けるのになーって思わすトコ
ですかね~?
【mosso】:イジワルでも学年イチ可愛い彼女が出来るくらいだから、
見ため的にイイ感じなんですか?
【グローブ】:カッコイイです! ゴトウ君は、ウチの学年で3本の
指に入ると思う!!
(ぁ。ヤバ・・・ ”ゴトウ君 ”って・・・)
一瞬、間があき、mossoが返信を続ける。
【mosso】:言っちゃいましたね? ゴトウ君てw
今、PC前で大笑いしてますww
なんだかこの時、ミノリまで頬が緩んだ。
なんだろう、この気を使わない感じ。長年の親友みたいな感覚。
直接顔を見合わせないことで、話せる本音があった。
嬉しいことも。悲しいことも。悔しいことも。
本名はさすがに言わないけれど、
もっとmossoに話を聞いてもらいたくなった。
もっとmossoと話がしたくなった。
もっとmossoと、ちゃんと・・・
連夜かわす会話で、なんとなく、互いに同年代であること、鯛焼き好きで
あること、実はなんと同じ市内であることが判明した。
”近くにいる ”というだけで、なんだか心強く思えた。
この先、もし、なにかしらのキッカケがあれば、mossoともっと近く
なれるかもしれない。
リアルで親友にでもなれるかもしれない。
最強の女友達が出来ちゃうかもしれない。
ミノリはそんな面持ちでPC画面に次々流れる言葉たちに、
目を細めて微笑んだ。