■第40話 錦冠が咲いた夜
次の瞬間。
暗くなった夏の夜空に花が開くときの、笛のような音が響いた。
それに続き、花火が筒から連続で打ち上げられる。小さく段々大きく。
花火大会のはじまりだ。
慌てて岩の上に立ち上がった、ふたり。
桐下駄が不安定で、ミノリはハヤトの肩に手をおいてバランスをとりながら。
ナイアガラがはじまった。
速火線で連結した数十メートルの焔管から、火の粉が一斉に流れ落ちる。
続いて、スターマイン。5号玉100連発。車花火。
次々と夜空に盛大な花が咲き乱れる。
目を細めて嬉しそうに見ているミノリ。
ハヤトはこっそりその横顔を見ていた。
ミノリの瞳に、牡丹花火の赤や青が映っている。
頬はほんのり高揚して、赤く染まって。
自分の肩に置いているミノリの手を、そっとつかんで握った。
真っ直ぐミノリを見つめる。
そして、照れくさそうに言った。
『やっぱ、言いたいわ。』
『ん?』 ミノリが花火からハヤトに目線をずらす。
『言っちゃダメなんだろうけど、やっぱ。 ・・・言っちゃうわ。』
意味が分かったミノリが、恥ずかしそうに俯いた。
『もお・・・ いちいち恥ずかしいから、ヤメテ・・・
ほんとに、恥ずかしいってば・・・。』
そう困って面映ゆそうに足元に目を落とすミノリに。
『・・・ミノリ・・・。』
はじめて、名前で呼ぶ。
『・・・すっげぇ、可愛い。』
そっと目を上げたミノリに、
ハヤトがそっと、顔を寄せた。
そして、
小さく小さく キスをした。
遠く、うすけむる藍色の空に、エンディングの花火が連発していた。
4号玉、5号玉、7号玉が連続して打ち上げられ、最後に特大の錦冠が
大空に咲いて散った。
恥ずかしそうに空を見上げるふたりの潤んだ目に、それは黄金色に
焼き付いていた。