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■第36話 信頼



 

 

それからふたりは、直接会話をすることも、電波を通してすることも

一切なくなった。

 

 

 

3年に進級し、クラスは離れてほぼ接点はなく。

ただ同じ廊下並びに教室がある、というだけだった。

その教室さえも、A組とD組で端から端。

A組のハヤトは東側の階段を使い、D組のミノリは西階段が近かった。

 

 

しかし、まるでその距離を埋めるかのように、互いその目は相手を探し彷徨う。


廊下ですれ違うとき、全校集会で体育館に集まるとき、昇降口を出てゆくとき。

校庭で、音楽室で、美術室で。

その背中を、その歩く姿を必死に探し、目で追った。


しかし、互いに目が合いそうになると決まって哀しげに目を逸らした。

逸らすたび、その胸は熱に似た痛みを帯びた。

 

 

風の噂で、あれ以来ハヤトは誰とも付き合ってはいないようだった。

ハルカとモメにモメてやっと別れた後は、また以前同様、学年トップレベルの

女子が放課後にハヤトを呼び出したが、すべての告白を断っていた。


『好きな子がいるから。』 という理由で断っていることなど、

ミノリは知りはしなかった。

 

 

 

 

 

それは。アカシアの白い花が枝から垂れ下がり芳香を放つ、初夏。

 

 

3年でも同じクラスになったタケルが神妙な面持ちでミノリに話し掛けてきた。

それはどこか遠慮しているようでしかしどうしていいか分からずオロオロして。

 

 

 

 『こんな事コンノさんに話していいのかどうか、アレなんだけど・・・』

 

 

 

『なに?』 ミノリが小首を傾げる。

 

 

 

 『アイツが・・・ハヤトが、学校来てないみたいなんだ。


  まだ1週間まで経ってはいないみたいなんだけど・・・

 

 

  なんか、クラスの奴が職員室で、


  アイツんトコの担任が


  ”協議離婚が云々 ”て話してた、とかゆってて・・・』

 

 

 

ミノリの顔色が変わった。

眉間にはシワが寄り、途端に胸が締め付けられる。

 

 

 

  (ついに、ご両親の離婚が決まったんだ・・・。)

 

 

 

 

 

 

自室でひとり。ミノリはタケルの言葉を思い返していた。

 

 

 

 『アイツ、なんにも自分のこと言わないんだ・・・


  俺、小学校からの付き合いなのに。


  アイツの親が離婚しそうなんて、まったく聞かされてなかった・・・


  いっつも、本音隠して、ひとりで我慢して・・・』

 

 

 

 

 

   ”家の問題で凹んでる時も、


    コンノと話すと。気が、晴れた・・・ ”

 

 

ハヤトが涙をこぼしながら呟いた言葉が、浮かぶ。

  

 

 

  ”素直になれたから・・・ 一番、正直でいられたから・・・。 ”

 

 

 

 

 

最後にタケルが言った一言。

 

 

 

 『アイツが、もし、自分のこと。 誰かに話してたとしたら・・・


  それは、ハンパない信頼度だと思う・・・


  家族よりも、友達よりも、誰よりも・・・

 

 

  正直、悔しいけどな。 長年の付き合いの、俺としては。』

 

 

 

そう言って、悲しそうに目を伏せた。

タケルのその顔は、いまにも泣き出しそうで。

 

 

教室の窓から流れ込む青葉のにおい混じる風が、タケルの頬をやさしく

撫でていた。

 

 


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