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■第35話 一番、正直で



 

 

その翌日。


ハヤトが重い足取りで登校すると、ミノリが既に席に着いていた。

しかし、その顔は窓の外を向き、微動だにしない。

 

 

 

 『・・・コンノ。』

 

 

小さく呼び掛けるも、窓の外へ向ける目がハヤトを捉えることはなかった。

 

 

 

 

放課後。


その日一度もハヤトの方を向く事がなかったミノリが、コートを着込みカバンを

持つと足早に教室を出てゆく。

 

 

立ち上がり、追い掛けた。

靴箱へ向かう生徒で騒がしい廊下を駆け、慌てて靴を履き替え、赤い傘を差して

雪の中をまっすぐ進むミノリを追い掛けた。


『コンノ!!』 そう呼び掛けて後ろから強引に肩をつかみ歩みを止めさせる。

すると、ゆっくり振り返ったミノリの頬には涙が伝っていた。

 

 

思わず、目を伏せるハヤト。

 

 

 

 

  (泣かせてしまった・・・。)

 

 

 

 

ハヤトの目にも涙が滲み、その顔を見たミノリの目から更に大粒の雫が落ちる。


ミノリの肩を掴んでいた手が震え、ダラリ。力無く滑り落ちた。

ふたり俯いたまま、互いに二の句を継ぐことが出来ず、立ち尽くす。

 

 

 

 『・・・話、聞いてほしい・・・。』

 

 

 

やっとのことで絞り出したハヤトの震える弱弱しい声は、ほろほろと舞い落ちる

牡丹雪に溶けて消えてしまいそうだった。

 

 

 

 

 

公園に、ふたり。


ミノリがハヤトを好きになったキッカケの、その場所。

バレンタインのチョコレートを渡そうとした、その場所。

そして。ハヤトがひとりミノリを待った、その場所。

 

 

泣きはらしたミノリの目も頬も、真っ赤で。

吐く息は外気の冷たさに、心細げに白く流れる。


俯くハヤトが、言葉を選びながら、ひとつずつ話しはじめた。

 

 

 

 『ごめん・・・

 

  途中で気付いた時には、言い出せなくなってて・・・


  何度も何度も。 やめようと、思って・・・


  でも、コンノとの遣り取りが。 楽しくて・・・

 

 

  家の問題で凹んでる時も、


  コンノと話すと。気が、晴れた・・・


  ”頑張れ ”じゃなくて ”ごーほい ”ってゆってもらえた・・・』

 

 

 

ハヤトが涙でつまる。

ミノリは黙ったまま何も言わない。

 

 

 

 『”ごーほい ”って・・・


  ”ごーほい ”ってゆってもらえて、泣けた・・・

 

 

  ほんとは・・・ やめたくなかった。


  やめたくなくて、話せなくなるのがイヤで。


  どうしたらいいか、ずっと・・・ 考えて・・・』

 

 

 

ハヤトの頬に涙が伝う。

ミノリの頬にも再び雫がこぼれる。

 

 

 

 『ほんとは、怖かった・・・


  コンノに嫌われるのが、怖かった・・・

 

 

  でも、それより。


  泣かすことが。 傷つけるのが怖くて・・・


  コンノが泣くの、見たくなくて・・・ 言い出せなかった。』

 

 

 

ミノリが両手で顔を覆い、泣いている。

 

 

 

 『ごめん、コンノ・・・


  俺。 言い出せなかった・・・


  ふたりで話すのが、どうしようもなく・・・ 楽しくて。


  ただ・・・ 傍にいてほしくて・・・

 

 

  素直になれたから・・・ 一番、正直でいられたから・・・。』

 

 

 

肩を震わせて、ハヤトが泣いている。


握り締めた拳に、涙の雫が落ちてはその形がゆがむ。

寒空の下、手袋もしないその拳は真っ赤に凍えて。

 

 

 

すると、ミノリがゆっくり顔を上げた。

潤んだ真っ赤な目でハヤトを見ると、ひとこと。 悲しげに微笑んで、呟いた。

 

 

 

 『もう、いいよ・・・。』

 

 

そして立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。

ハヤトに背中を向けて、小さく足跡をつけて。

まっさらな雪を踏みしめる音を、白い世界に響かせて。


その背中は、決して振り返ることはなかった。

 

 

 

 

 

そして、ふたりは3年に進級し離れ離れになった。

 

 


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