■第34話 踏切
翌日、ミノリは学校に登校しなかった。
主のいないハヤト左隣の席。
クラスメイトの殆んどが、それをなんとも思っていないようだった。
みんなにとっては然程変わりの無い、いつもの教室の、いつもの風景だった。
ミノリのいない左側だけ、まるで腕をもぎ取られた様に哀しく痛む。
左隣席とハヤトの心にだけ、底を見出せそうにない穴が仄暗くぽっかり
空いていた。
ナナから無理矢理ミノリの家の場所を聞き出す。
終業のチャイムと同時に教室を飛び出し、廊下を抜け昇降口へと駆けた。
校庭脇の雪積もる通学路を抜け、T字を右折し、駅前を過ぎて2丁目へ向け
電車の踏切に差し掛かった、その時。
踏切向かい。
ミノリの姿を見止めた。
ミノリもハヤトに気付き、哀しそうに固唾を呑んで立ち尽くしている。
ハヤトが一瞬その姿に目を見開いてたじろぎ、しかし慌てて踏切を渡ろうと
したその刹那、耳ざわりな警報音が鳴り響き、遮断機が下りはじめた。
走れば15秒も掛からないミノリまでのその距離が、無情にも黄色と黒色の
それに立ちふさがれる。
『コンノォォオオ!!』
聞いてほしい。
どうか話を聞いてほしい。
謝らせてほしい。
その一心で、その名を叫んだ瞬間。電車がスピードを上げて目の前を通過する。
ガタンガタン ガタンガタン ガタンガタン ・・・
永遠かと思うような、その堰き止められた時間。
浅い呼吸。震える唇。潤んでゆく瞳。
そして、電車が過ぎ去る。
遮断機上がる踏切向かいには、もう、ミノリの姿はなかった。
自宅のPC前で、毎夜見つめていた画面を開く。
しかし、そこにも当たり前にミノリの姿はない。
待った。
待った。
待った。
もしかしたら、一瞬でも気が向いて来てくれるかもしれないとの期待を込めて。
どんなに責められても、恨み言でも、なんでもいい。
ただひたすら、ミノリがサインインする事を願って。
しかし、夜更けすぎた頃。
それは身勝手な独りよがりにすぎないと、痛いほど思い知らされた。
ミノリは来なかった。
ミノリとは話せなかった。
ミノリに、嫌われてしまった。
繰り返しだ。
どうせまた繰り返すだけ。 前に戻っただけ。
ミノリが傍にいなかった時に、戻っただけだ。
誰にも心を開かず、誰にも本音を言わないあの頃に。
繰り返すだけ。
繰り返す・・・
・・・・・・繰り返したく、ない、な・・・・・。
両の拳で思いっきり机を叩きつけた。
静まり返った暗い部屋に、ハヤトの心が軋む音が悲しく響く。
ログイン状態を非表示にし、ミノリがサインインして悲しそうに画面を見つめて
いた事などハヤトは気付けるはずもなく・・・