■第33話 明かされた答え
ミノリはまだ信じきれない面持ちで慌てて自宅へ帰ると、PCを立ち上げた。
”mosso ”というワードを検索してみる。
そこに、表示されたもの。
≪mosso≫
音節 mos • so 発音 mɑ'sou | mɔ'sou
[副]《音楽》速く
”後藤 速 ”(ゴトウ ハヤト) ・・・mosso :音楽用語で ”速 ”
静まり返った部屋で、ミノリがひとり、嘲った。
『・・・本人、だった・・・。
本人が・・・ 面白がって、会話してたんだ・・・。』
今日渡すはずだった、バレンタインのチョコレート。
4回作り直しをして、やっと満足いくものが出来ていた。
ラッピング用品も3軒ハシゴして選び、靴箱に入れる手紙は何度書き直したか
分からない程だった。
今朝。
いつもより1時間早く登校し、ハヤトの靴箱の前でどのくらい立ち竦んで
いただろう。
右手に握る手紙を、靴箱の中のどの辺りに入れるかで散々悩んだ。
手前だと目立ちすぎるし、あまりに奥だと気付かれないかもしれない。
靴の中に刺すように立ててみたり、靴の間に挟んでみたり。
今日渡すはずだった、バレンタインのチョコレート。
学校指定のサブバックからその赤い包みを取り出すと、机の隅に置いてある
ごみ箱の前で立ち竦んだミノリ。
両手で思いっきりそれを握りつぶす。
そしてごみ箱に叩き付けようと両腕を振り上げ、動きを止めた。
赤い包みを握る両手は震えていた。
俯き、苦しそうに顔をゆがめ、口をぎゅっと強くつぐむ。
涙が次から次へととめどなく流れ、胸を切り裂くような嗚咽が切なく漏れた。
『・・・・・・ひどいよぉ・・・・・・。』
その場に崩れるようにしゃがみ込んたミノリの手には、捨てられなかった
チョコレートがひしゃげて形を変え、悲しげに歪んでいた。
薄暗い公園のベンチに、ポツンと。ハヤトの姿。
コートのポケットには、大切そうに宝物のように今朝靴箱から取り出した手紙。
名前は書いてはいないけれど、ミノリらしい丁寧な文字がそこには在った。
来るはずのない姿を待って。
渡せるはずのないプレゼントの包みを片手に。
雪を払って座ったベンチは、ハヤトを芯まで冷やす。
鉄棒に横一列に積もっている白い雪。
滑り台の階段にもそれはこんもり新しく積もり、誰も上っていないのが
見て取れる。
公園入口からベンチまで、自分の足跡しか付いていない。
どのくらい待てば、他の足跡は付くのだろうか。
どう謝れば、ミノリの足跡を付けることが出来るのだろうか。
どう、謝れば・・・
どう、説明すれば・・・
どう・・・。
ハヤトの頭に、ダッフルコートの肩に。冷たく重いものが降り積もっていた。