■第32話 その日
それ以来、ミノリは頭から疑念が消えることはなかった。
過去ログを最初から読み返してみた。
何度も何度も。
繰り返し繰り返し。
すると、最初 ”女の子 ”だと勝手に思い込んだそれは途中から違和感を憶えた。
まるで近くにいるような親近感も、こうなるとやけに現実味を帯びる。
そして、ミノリの自宅が ”2丁目 ”だと知っていた。
(mossoって・・・ ゴトウ君の、知合い・・・?)
そう思った瞬間、ミノリの頭に浮かんだ顔。
『・・・アイザワ・・・君・・・?』
ハヤトの小学校からの友達、タケルが思い浮かぶ。
ミノリに ”ハヤトが好きか ”訊き、
”メアドを教える ”と言い、
”ハヤトの隣にいてくれれば ”と呟いた、あのタケルが・・・
合致した。
全て合致した気がした、のだが・・・
翌日の教室で、タケルがクラスメイトと楽しそうに話す声。
ミノリは耳をそばだてていた。
すると、家族の話をしている様子だ。
『昨日、父ちゃんとチャンネル争いでめっちゃケンカしたー
母ちゃんはやったら父ちゃんの味方すっし、超ムっカつくわー・・・』
(あれ・・・? アイザワ君、じゃない・・・?)
疑念が消えないまま、2月14日を迎えた。
あれ以来、なんとなくmossoとの会話は避けていた。
胸になにか引っ掛かるものはあるものの、ミノリは予定通りチョコを作り
早目に登校してハヤトの靴箱に震える手で手紙を入れ、1ミリもハヤトの方は
向くことが出来ないまま心此処に在らずといった面持ちで、その日の放課後を
迎えようとしていた。
5時限目が終わった短い休み時間のこと。
タケルがハヤトの元へ不機嫌そうに、駆け寄った。
『ヤっちゃったー・・・ ケータイ、水没しちまったー・・・
ちょ。 お前のケーバンとメアドだけ教えといてー
確か、メアド・・・ モッソなんたら・・・ だよな??』
その声に。
ハヤト隣席のミノリが、一瞬、固まった。
『モッソ アンダーバー ジー、だっけか??
えむ おー えす えす おー で、いいんだよな?
・・・ドコモだっけ? Auだっけ??』
静かに静かに、ミノリがハヤトの方を向く。
ゆっくり、瞬きをする。
乾いた唇を少しつぐんで。
それは、まるでスローモーションのように。
ハヤトが真っ青な顔をして目を見開き、俯いている。
机の上に置いた拳が微かに震える。
タケルの声にも全く反応しない。
それが、ミノリの ”疑念 ”への明確な答えになっていた。
『・・・・・・・・・・・・嘘、でしょ・・・。』
ミノリが、ひとり、かすれた声で呟いた。