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■第31話 疑念



  

 

自席の机の前で、呆然と立ち尽くすミノリ。

 

 

 

机の上には、ごみ箱をひっくり返したようなごみの山。


ごみに混じって、行方不明だったミノリの教科書がマジックペンで落書き

されて出た来た。 無くなった事に気付いてさえいなかった筆記用具まで

ひどく汚れてごみにまみれている。

 

 

 

  声が出なかった・・・

 

 

 

ショックでぶるぶる震える手で口許を覆う。

目には涙が溢れ、その場に立っているのでさえつらい。


慌ててナナが駆け寄り、ミノリの肩を掴んでやさしく支える。


クラスメイトが遠巻きに見ているところへ、ハヤトが教室に足を踏み入れた。

教室後方は人だかりでよく見えないが、何かあった様子だ。

一瞬ハルカの横を通り過ぎる時、小馬鹿にするような嫌な笑い声が耳に付いた。

 

 

 

そして、ハヤトの目に入ったもの。

 

 

 

 『・・・・・・・。』

 

 

 

慌てて駆け寄り、素手でミノリの机の上のごみをどける。

ごみの中から教科書を掴むと、自分の制服の袖口で表紙をぬぐい大きな

汚れを除いた。


尚も、無言でごみの山に手を突っ込む。

その手は汚れ、濃紺のブレザーの袖口が濡れて嫌な匂いが浸みこんでゆく。

 

 

そのハヤトの姿を、見つめるミノリ。

涙が次から次へと毀れおちる。

震えがまだ、おさまらない。

 

 

 

すると、ハヤトが野次馬をかき分け、ハルカが足を組んで座る席の前に立った。

 

 

 

 『・・・お前、いい加減にしろ。』

 

 

 

低くうなるような声色に、ハルカが一瞬たじろぐ。


『はぁ? なに??』 顔を引き攣らせながら半笑いで足を組みかえ、

長い髪の毛先を指でもてあそぶ。

 

 

 

 『靴箱にごみ入れたり、教科書隠したり。


  やる事が小学生なんだよ・・・ 言いたいことあんなら、俺に言えよ。』

 

 

 

俯き泣きじゃくっていたミノリが、一瞬、動きを止める。

 

 

 

 『 ”中の中 ”・・・?


  どんだけお前はエラいんだよ。 どんだけお前は ”上 ”の人間なんだよ。』

 

 

 

両手で顔を覆っていたミノリが、顔を上げる。

ダラリ、力が抜けたように両手が垂れ下がる。


そして、ハヤトへ向け目を見張り震えた。

 

 

 

 

  (なんで・・・


   なんで、その事。 ゴトウ君が知ってるの・・・?


   わたし、mossoにしか言ってないのに・・・


   mossoに、しか・・・

 

 

 

   ・・・mossoって・・・・・ 誰・・・? )

 

 

 

 

 

放課後の教室。

 

 

ハヤトは静かに言った。


 『別れたい。 もうずっと。好きなヤツ、いるから・・・。』

 

 

 

するとハルカが真っ赤になって激昂した。


 『絶対イヤっ! なんであんな ”中の下 ”の地味な子に


  負けなきゃいけないの!!


  バっカじゃないの? っざけないで・・・』

 

 


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