■第3話 気怠い背中
翌日、気が重いまま登校し、昨日の悪夢がいまだ生々しい教室へ入るミノリ。
廊下側から3列目の最前席にハヤトの席。
その横を通り、ミノリは2列目の最後席へと進む。
”コンノ ミノリ ”、 ”ゴトウ ハヤト ”
出席番号順で言えば、前後に並ぶはずだった席。
すぐ後ろにハヤトが佇み、プリントをまわす際は目が合い、なんならミノリの
肩についた糸くずを、ハヤトが微笑んで払ってくれたかもしれない前後の距離。
しかし、
ミノリの生まれもった力は、そう易々とその威力を弱体化させたりはしない。
(ツイてない・・・)
ミノリとハヤトは列をまたいで最前席と最後席という形で、見事に前後に
並んでいた。
(改名したいくらいツイてないわ・・・)
ハヤトの横を通る一瞬、小さく目線だけ向けてみたのだがミノリになど気にも
留めずハヤトは机に突っ伏して気怠そうにしている。
もしかしたら昨日目撃された ”あの現場 ”にいたのが、ミノリだという事すら
分かっていないのかもしれなかった。
最後席から少しだけ体をずらして、最前席の決して振り返りはしないその気怠い
背中を見つめていた。
お昼休み、ミノリは友達のナナと向かい合わせに座り昼食をとった。
いつもミノリの前席を借りるナナ。
横向きにイスに座り、昼食のお弁当はミノリの机に置いている。
ひとつの机に二人分の弁当箱と、ミノリは紙パックの野菜ジュース。
ナナはペットボトルのお茶を置いている。
席位置が変わらないミノリの目には、相も変わらず最前席の気怠い背中が
映っていた。
今日も、パンを味気なさそうに口にしているハヤト。
同じクラスになってからというもの、パン以外を食べている姿を見たことが
なかった。
しかしそれは無類のパン好きという感じではなく、たまに友人の弁当の
おにぎりを貰いたがってパンとの交換をねだる姿から察するに、お弁当を
作ってもらえる環境ではないという事のように思えた。
(いくらでも作ってあげるのになぁ・・・)
決して本人になど言えない言葉を、弁当箱の自作玉子焼きを箸でつまみ上げ
ながらミノリはひとり心の中で呟いた。