■第28話 始まり
それは、気が付いたら少しずつ少しずつ始まっていた。
朝。 ミノリが登校し、靴箱に手を入れるとパンの空袋が入っていた。
『ん??』 然程気にせず、それを昇降口横のごみ箱に捨て、教室へ進んだ。
とある日。教室の自席の机から教科書を取り出そうとしたところ、
それが見当たらない。体を屈め引出しの奥まで確認するも、ノートはあるのに
教科書がない。
『あれ・・・? 持って帰ったっけ?』 ひとりごちるミノリに、
右隣のハヤトが目を向け首を傾げる。
『・・・忘れたの?』
『ぁ、うん・・・ そうみたい。』
ミノリがそう返すと、ハヤトが自分の机の端に手を掛け少し持ち上げてミノリの
それにぴったり寄せた。
目を白黒させるミノリなど構わず『ないと困んじゃん。』一言ハヤトは呟いた。
一列ずつ並ぶ机の列に、窓側最後方のそれだけ2つ、くっ付いて並ぶ。
始業のチャイムに担当教師が教室に入ってくると、ハヤトがすぐ手を挙げた。
『教科書忘れたんで、隣に見してもらいマース。』
ミノリが赤い顔をしてハヤトを見ると、チラっと一瞬目線だけ寄越して
ほんの少し口許を緩めて笑った。
慌てて窓側を向くミノリ。
耳がジリジリ赤くなる音を聴いていた。
廊下側の席のハルカが、冷酷な目でミノリを睨んでいた。
【グローブ】:なんか、最近。わたしの気のせいかもしれないんだけど
なんか、なんてゆうか。 変なんだよね・・・
ハヤトはその言葉に心臓が縮み上がる。
mossoの正体に気付き始めてしまったのだろうか・・・
恐る恐る指先を進める。
【mosso】:どんなふうに?
【グローブ】:靴箱にごみが入ってたり、とか・・・
間違っただけかもだけどね?
そういえば、教科書も行方不明だし。
廊下歩いてたら、誰かとすれ違った時に
”中の中のくせに ”って
言われたw ヒドイ・・・。 でも反論できないww
(なんだそれ・・・ あきらかに嫌がらせじゃんか・・・。)
【mosso】:反論しろよ!!
(ぁ。ヤベ・・・ 口調、荒かった・・・。)
【mosso】:他には? なんかされてないの??
【グローブ】:関係あるかどうか分かんないけど・・・
ゴトウ君の最強カノジョが、
最近すごい睨んでくる気が・・・
(・・・・・・・・・・。)
【グローブ】:ほら、最近さ。
席も隣だし、実行委員とかも一緒だったし、そうゆう系?で
なんか・・・ まぁ、そりゃ嫌だよね?
カノジョだもん・・・
申し訳ない、ほんと・・・
画面前で溜息をつき、うな垂れるハヤト。
その顔は悲しそうに歪んでいる。
(俺が、ハッキリさせないからだ・・・。)
【mosso】:ごめん。
思わず謝ってしまった。
慌てて追加入力する。
【mosso】:なんにもしてあげられなくて、って意味。
こっちは色々グチ聞いてもらってんのに。
【グローブ】:なに言ってんの~w
色々聞いてもらってんの、わたしじゃんw
まぁ、大丈夫だよ。 気のせいかもしれないしね~
この時のミノリは、然程深刻には考えていなかったのだった。