■第24話 花火大会の夢
【グローブ】:夏が終わっちゃったねぇ~
【mosso】:うん。 秋だね
結局、ミノリとの会話をやめられずに、いつもの時間のいつもの場所にふたり。
ディスプレイに流れる文字を、互い、目で追いながら。
【グローブ】:わたしね、理想のデートがあるんだw
唐突にはじまった、ミノリの理想とするデートのプラン。
ミノリは夜の窓から見える秋の月を眺めながら、気付けば過ぎ去って
しまった夏を思い返す。
PC画面をやさしく見つめるハヤト。自然と頬は綻び、口許は緩む。
【mosso】:どんな?どんな?w
【グローブ】:えーとね。季節は、夏ね。
花火大会にふたりで行くの。
わたしは浴衣着て。
【mosso】:うんうんw
【グローブ】:でもね、花火大会の会場には行かないで
神社で待ち合わせするの。
ウチの近くにある丘の上の神社。
【mosso】:近所にあるんだ?神社。 2丁目?
【グローブ】:そうそう。 2丁目の長い坂道上がってったトコの丘の上。
(あれ・・・?
わたし、mossoに自宅2丁目って話してたんだっけ?)
【mosso】:で?w
【グローブ】:浴衣で行くことは内緒にしておくのね。
ビックリさせたいから。
で、浴衣姿みて驚くでしょ?
で・・・
【mosso】:で?w
【グローブ】:で・・・ 『可愛いじゃん』って、思ってくれるわけ。
まぁ、実際可愛いかどうかは今は置いといて!
【mosso】:www
【グローブ】:でね。そう思ってくれたとしても、言わないでほしいの。
こっそり思っててほしいの。
でも、ちょっと顔には出ちゃってる、みたいな・・・
そうゆう、なんてーの? わかる?ww
うわ。恥ずかしいw 今、リアルで顔あついから、わたし!
暗い部屋でひとり、ハヤトが声をあげて笑っている。
目尻には涙が。思わず、ひとりごちる。
『なんだよ、それ・・・。』 目を細め、画面の中の文字を愛おしく見つめる。
【mosso】:PC前で爆笑中ww
【グローブ】:わたしだって、mossoだから言えるんだからね!w
こんな話、リアルだったら誰にも言えないよー!
【mosso】:はいはい、わかったわかったw で?w
【グローブ】:その神社の裏手にね、
ちょっと大きい石ってゆうか岩があるの。
周りは木で鬱蒼としてるのに、その岩の上にあがると
丁度目の高さだけ枝の隙間が出来てて、
街並みが一望できるの!
ぁ、コレは、ほんとの話ね。 妄想じゃなくて。
【mosso】:穴場、ってやつ?
【グローブ】:そうそう!
だから、そこからふたりだけで花火が見れるの。
花火をふたりじめするの!
ねぇ、中々よくな~い?w
【mosso】:でも、よく発見したね? そんな場所。
【グローブ】:うん。前にちょっと言ったけど、
中学で学校行けなくなった時に
よくひとりで行ってたの。
そこからボ~っと景色眺めてるとなんか落ち着くんだ・・・
オススメだよ! 誰にも教えたことないんだけどねw
【mosso】:出来るといいね? 花火デートw
【グローブ】:あははww 無理でしょ~。1兆%無理w
まっすぐ画面を見つめるハヤト。
文字を打つ表情は、どこか悲しげに。
【mosso】:無理じゃないよ。
『無理なんかじゃない・・・。』 小さく声に出した。
机に突っ伏して、額をゴツンと打ち付ける。
キーボードから手をずらすと、机の上でゆっくり拳を握りしめる。
力が入りすぎて握る指先が少し白くなっている。ふっと、力を抜いた。
『・・・でも。 どうしたら、いい・・・?』
小さく呟く声はあまりに弱弱しくて、
窓の外で吹く強めの夜風の音にかき消された。