■第22話 メアド
ハヤトを振り返り頬を染めるミノリを、目を細め眺めていたタケル。
『ねぇねぇ。 ハヤトのメアド教えちゃるか~?』
ニヤニヤと白い歯を見せる相手に、ミノリは絶句して目を見開いた。
『アイツんこと、好きでしょー?』
言うと、ニヒヒ。とまだ笑っているタケル。
首をぶんぶん横に振り、最大限広げた両手の平を ”チガウチガウ ”と揺らす。
ミノリは全力で否定してみるも、夕焼けよりも赤い顔とあからさまな
狼狽っぷりに結局。完全完敗とばかり、小さく溜息をついてうな垂れた。
『いつからー? いつからアイツんこと好きなのー?』
白旗を揚げたミノリへのタケルの攻撃は、更に威力を増す。
ニヤニヤと口許を緩ませながら、矢継ぎ早な質問攻めは止むことを知らない。
モジモジと口ごもりながら、ミノリが静かに口を開いた。
『高1の最初に・・・
見かけたの、ゴトウ君を。・・・公園で。
もうその時から、目立っててモテてて。
わたし、なんの興味もなかったんだけど・・・
あー・・・ 別の世界の住人だなー、くらいの・・・
・・・そしたら。』
ミノリが思い出し笑いを堪えるように、目を細めた。
『公園で、ひとりで。 こそこそ、鯛焼き食べてたの・・・。』
我慢しきれず肩を震わせて笑いだす。
『お昼だって、まるで無気力ぶってパン食べてるけどさ。
たまに必死におにぎり貰おうとしてるのとか、もう・・・。』
笑いすぎて目尻に溢れた雫を指先で押さえる。
そして、やさしく続けた。
『なーにを、そんなに必死に隠してるのかなー、って。
本音、もっと出せばラクになるのにー、って・・・。』
そう言って遠くを見つめるミノリを、タケルはどこか泣き出しそうな顔で
見ていた。
『コンノさんみたいなのが、ハヤトの隣にいてくれたらいいのにな・・・。』
そう呟くと、タケルはカバンに手を突っ込み、スマホを取り出した。
そして指先でスクロールして、ニヤリ笑いながら言った。
『ほら、いくぞ!
えむ おー えす・・・』
パチパチとせわしなく瞬きし、状況が呑み込めていないミノリに
『ほれほれ! ハヤトのメアド、メアド!
えむ おー えす・・・』
『ちょ。ちょっと待ってよ! ケータイ出すから・・・』
慌ててその場にしゃがみ込み、カバンの中にあるはずのケータイを探すミノリ。
『あった!ケータイ。 え? えむ、おー・・・?』
指先でそれを記録していた時、
♪~♪♫・・・♪・・♪♪♪~♪♫・・・♪・・♪♪
タケルのケータイに着信。
メールアドレスは最後までミノリに伝えられないまま、途切れてしまった。
電話が長くなりそうな気配に、ミノリが小さく手を振って先に帰る意思を表す。
”ごめん ”と顔の前に手をやり、タケルが電話に戻った。
タケルのスマホ画面に表示されていた、ハヤトのメールアドレス。
”mosso _ g @・・・ ”
ミノリはそれを、この時はまだ、知らないまま。