■第21話 帰り道
『じゃ。お疲れ・・・』
そう軽く手を上げて、ハヤトがT字路を左折してゆく帰り道。
『おぅ。』 そう返すと、タケルはミノリに小さく目線を向け、促した。
ミノリとタケルはT字路を右折する2丁目組。
ハヤトは5丁目に自宅があり、方向は別だった。
ナナは寄り道するからと別方向へ向かい、手を振って先に別れていた。
ハヤトの背中を、ほんの少し立ち止まって見ていたミノリ。
濃紺のブレザーの肩に、学校指定のサブバックの持ち手を引っ掛けて
少し猫背気味に、気怠げに踵を擦って進むその背中。
(じゃあね・・・ また明日ね・・・。)
目を細めるミノリが、タケルに促され家路への歩みを進めた。
その直後。
濃紺ブレザーの背中が、立ち止まり振り返った。 その目は、遠く眺める。
タケルと並んで歩いている、その華奢な背中。
やわらかく丸みあるショートカットのシルエット。
耳にかけたサイドの短い髪の毛が、歩く揺れの前後に合わせ小さくゆれている。
切なげに見つめるハヤトの目に、ミノリがタケルと笑い合い、
手を伸ばしてタケルの腕を冗談ぽく押し遣っている姿が。
体を屈めて笑う声が、秋の夕焼け空に小さく響いている。
それを。じっと、見ていた。
なんだか。胸の奥に、言葉では表せない感情が浮かぶ。
すると、その時。
ミノリが再び振り返り、ハヤトの姿をその目に捉えた。
立ち止まって、真っ直ぐハヤトを見るミノリ。
微かに、小さく小さく手を上げてゆっくり手を開くと、
それを微かに左右に振った。
夕陽が眩しくてよく見えなかったけれど、きっと、ミノリはまた赤くなって。
きっと、目を細めて。
そして、きっと、微笑んでいる。
そっと手を上げて、それに返事をしたハヤト。
そして向き直り、家路に向けて足を踏み出した。
頬も耳も、熱かった。
なんだか、バカみたいに、気を抜いたら泣きそうだった。
”今のこの状況をガマンしても、離れたくない人は。 いる、かな・・・ ”
ミノリへ綴った自分の言葉を思い返していた。
(・・・コンノと。 離れたくないな・・・。)
ハヤトの火照る頬に、秋の少し冷たい風が心地よい、たったひとりの帰り道。