■第20話 自動販売機
夕暮れの廊下を渡り、靴箱で外履きに履き替え、昇降口の段差を下り、
ふたりは校庭の角にある自動販売機へと進む。
橙色にじむ通学路には、本日の作業を終えた実行委員らしき姿がチラホラ。
吹奏楽部の奏でるアルヴァマー序曲が、秋の夕空に小気味よく小さく
そよいでいる。
陽が傾いた夕刻の自動販売機には、すぐ目の前にそびえ立つケヤキの木の陰が
映り眩しい黄金色に幹や枝の暗い色を落としている。
学校に一番近いそれは学生がよく買いに来るため、売り切れランプが点灯して
いるものも数種類あった。
相変わらず恥ずかしがってろくに口もきけないミノリと、そんなミノリに呆れ
ながらも”そのペース ”を尊重して、無理やり踏み込もうとはしないハヤト。
ただ黙って、ふたりで歩いた。
『あ!』 自販機前に着いた瞬間、ミノリが声を上げた。
『ん?』 ハヤトが目線だけ向けて、二の句を継ぐのを待つと
『ごめん・・・ 教室に、お財布忘れた・・・。』
自分の抜け具合に、苦い顔をして呆れるミノリ。
揃ってじゃんけん敗者という ”ミノリにとっての勝利 ”に分かり易くテンパり
肝心な財布を持ち忘れたのだった・・・
咄嗟にハヤトが尻ポケットに入れている財布に手を掛ける。
自分が4人分払えるから大丈夫だと言おうと考え・・・しかし、やめる。
そして、それをグっとポケット奥に押し込むと、
『やべっ! 俺も、だ・・・。』
少し大袈裟に声を上げた。
キョトンとした顔を向けるミノリ。
そして、互い顔を見合わせてぷっと吹き出し笑った。
それは。
何かと過剰に気にしがちなミノリの罪悪感が薄まり、
かつ、また同じ道のりを往復することになるという事で。
もう一度、ふたり。 この道を並んで歩くことになるという事で・・・
(最近、わたし。どうなっちゃってんの・・・?
人生の ”運 ”使い果たしちゃうんじゃない・・・?)
隣に立ち無言で歩くハヤトを、小さく横目で盗み見ていた。
背が高いハヤトが歩く歩幅を合わせてくれている事に、その時の浮かれる
ミノリは気が付けないでいた。