■第2話 掲示板
この遣り切れない想いを誰かに聞いてほしくて、
ミノリは思わずPC前へ急いだ。
慌ててイスに腰かけると、キャスター付きのイスは軽く左に半回転し
ミノリをPC画面から遠ざける。
電源スタンバイの ”| ” と ”○ ”が 組み合わさったスイッチを親指で押した。
お年玉で買った新しいPCは起動時間が驚くほど短く、ミノリの気を変える隙を
与えたりはしない。
ブックマークの中から、いつものサイトの掲示板を開く。
今までそれに投稿したことはなく、他人事のお悩み相談をおやつをつまみながら
片肘ついて読む専門だったのだが今回はじめてスレッドを作成し物悲しく背中を
丸めて、ポチポチとキーボードを叩いた。
** 失恋しました **
【HN:グローブ】
今日、ずっとずっと好きだった人が、
芸能人みたいに学年イチ可愛い女子に告られて、
OKしてたの目撃しました。
つらくて、悲しくて、泣きながら鯛焼き10個食べました・・・
すると、1時間後。
【Re:通りすがり】
>グローブさん
分かります!
そんな時はヤケ食いして忘れましょう!
【Re:名無し】
>グローブさん
元気だして下さい。
失恋には次の恋ですよ。
【Re:mosso】
>グローブさん
ただ目撃しただけで失恋になるんですか?
気持ち伝えて、ダメだったらスレッド立てれば?
っていうか、10個も食べられるならそこそこ元気じゃない?
・・・・・。
分かっている。
こういう掲示板は、本音をさらけ合う場所ではないって事ぐらい分かっている。
慰めの言葉をくれた人達だって、本心では鼻で笑っているかもしれないし、
取り敢えず表面上だけ親切な言葉を掛けただけかもしれない。分かっている。
でも、”そういう言葉 ”が欲しい時だって、あるのだ。
mossoという人の言葉が、ミノリの小ぶりの胸に突き刺さった。
間違っていない。
mossoの言い分は、何も間違ってはいない。
確かに、ミノリはただ、片想いという名の視線をハヤトに送っていただけで。
それは、あまりに自信がなく ”熱視線 ”にすら出来ず、”チラ見 ”レベル。
”覗き見 ”レベル。
”淡い ”という2文字を薄墨で書いて消えかけにした感じで。
mossoの言葉に、自分の不甲斐なさを嫌というほど痛感し、ミノリは返信を
くれた人達に『皆様、ありがとうございました。』と一行だけ御礼を述べて
PCの電源をOFFにした。