■第18話 席替え
(ついに・・・ わたしにも、ツキがまわってきた・・・。)
その日、2-Aの教室では、くじ引きが行われていた。
1学期のはじめに出席番号順で座った席。
そろそろ席替えをしようという話になりその決定方法は定番のくじ引きだった。
黒板に机の配列と同じ四角い枡を書き、番号を振る。
そして、箱の中から紙を引きその紙に書いてある番号の席が新しいそれだった。
ミノリが窓側の一番後ろの席に、自分のカバンや荷物を運ぶ。
諸々整えてイスに座ると、体ごと左へ向き、窓の外をじっと見つめていた。
耳がジリジリと熱くて仕方がない。
頬が火照って熱くて、下敷きで扇いで顔に風を送る。
前下りなサイドに流れるやわらかい前髪が、その風に小さく揺れている。
熱い
熱い
右側が、熱い・・・
ミノリの右隣の席。
机に片肘をついて、チラっと目線を向ける姿。
少し口許が緩むのを、小さく咳払いで誤魔化す。
ハヤトが、ミノリを横目で一瞬見て
やはり我慢出来なくなって少し肩を震わせた。
ふたり。 隣同士に、なった。
なんとか、もう少し距離を縮められないかと、ハヤトは考えあぐねる。
この左隣の、超ド級の恥ずかしがりやと、もう少し。 ほんの少し・・・
『・・・コンノ?』
呼び掛けてみた。
(ぁ。 名前、呼ぶのはじめてかも・・・。)
ビクっと体を小さく跳ね、せわしなく目をパチパチさせて、
『・・・なに?』 と蚊の鳴くような声が返ってくる。
『あのさ・・・消しゴム、ある? 消しゴム。』
(いや、まぁ。 俺も持ってるんだけどさ・・・)
『・・・ぅん。 ・・・ある。』
真っ赤になって頷く、ミノリ。
・・・・・・・・・。
(ぇ? いや、ちがうでしょ。 ”貸して ”って意味でしょ、フツー。)
『ぁ、いや。じゃなくて・・・ 貸してくんない?』
『ああああ! ぁ、うん。もちろん。うん・・・』 しどろもどろを絵に
描いたような慌てっぷりで、ミノリがペンケースから消しゴムを取り出した。
しかし、アタフタしすぎたその指から消しゴムはスルリ滑り落ち、
ミノリとハヤトの丁度中間あたり、床に転がった。
互いに慌ててそれを拾おうと体を屈め、同時に消しゴムを掴もうと手を伸ばし
頭がゴツリ。ぶつかった。
『ごめん!』
『わり!』
同時に発し、慌てて勢いよく手を引っ込めた時、ふたり仲良く机脚に肘を
ピンポイントで強打。 神経がビリビリして肘を抱え、悶えうめいた。
互いに、酷いしかめっ面をして、見合う。
ミノリが、ついに堪え切れなくなり笑った。
肘を抱えながら、大口開けて笑っている。
可笑しそうに、なんだか、やたらと幸せそうに・・・
その顔を、ハヤトが嬉しそうに頬を緩め小さく微笑んで見ていた。
そんなハヤトも肘を抱え、片手で軽くさすりながら。
『こうゆーの、なんてゆーんだっけ?』
ハヤトが、肘の神経がヤラれる現象の名前を、必死に思い出そうとして
半笑いのまま眉間にシワを寄せる。
『ファニーボーン。』
ミノリが目を細め、尚も笑う。
ミノリの背中から差す日差しが眩しかったのか、笑顔のそれか。
ハヤトは、そっと目を逸らした。
心臓がドキンドキンと、高速で音を立てた。