■第13話 バスケットボール
『なんか。 随分、今日は張り切ってねぇー?』
ちょっと笑いながら、友達のタケルがハヤトに声を掛ける。
バスケの練習試合中。
共に同じチームでプレイをしている最中のこと。
普段は気怠そうにあまり真剣に球技などしないハヤトが、今日は珍しくきちんと
ボールを追っている姿に、タケルは可笑しそうに笑い首を傾げていた。
『いや、別に・・・。』 ハヤトが照れ臭そうに目線をずらし、口ごもる。
(だってさ・・・
めっちゃ見てんじゃん、コッチ・・・
ガン見しすぎだろ・・・
もうちょっと、さり気なく見ろっての・・・)
体育館端っこで体育座りをするミノリの姿を、ハヤトもしっかり横目で
確認していた。
そして、その視線の先にはなにが映っているのかも・・・
(キンチョーするわ、逆に。 コッチが・・・。)
その時、女子コートの隅の方でなにやら騒がしく人が集まる姿。
体育教師も駆け付け、その教師に肩を抱えられヨロヨロと人だかりから
現れたのはミノリ。
鼻の辺りを押さえた手には真っ赤な血が。ボールを顔面で受け止めた模様。
(うわっ・・・ なにやってんだよ・・・。)
その情けない背中が体育館を出てゆくまで、ハヤトはずっとその方向を
見つめていた。
思わず、ハヤトが大きめの声を上げる。
『あ。痛っ!!! やべ。突き指ー!!
・・・ちょ、保健室。いってくる・・・。』
そう周りに言い捨て、早足で体育館を駆けて行った。
背中でハルカがハヤトの名を呼んでいたような気もするが、
無視して体育館を出た。
(俺・・・ なにやってんだ・・・。)
ハヤトはひとり、授業時間中のひと気ない静かな廊下の先にある保健室の
扉の前で立ち竦んでいた。
そして、
ゆっくり手を伸ばし、すりガラスがはめ込まれた重い扉の引き手に、
そっと指をかけ開けた。